
「欧州のデータは、欧州で動かす」— ハノーバーメッセ2026 で T-Systems × Siemens × NVIDIA が示した6週間の答え #HM26
ハノーバーメッセ2026の1日目、Center Stageで行われた、T-Systems × Siemens × NVIDIAの3社によるパネルディスカッションに参加してきました。
タイトルは 「The Industrial AI Factory — Powering Europe's Next Era of Innovation」。

欧州のソブリンAI議論と言えば、ここ1〜2年「EUが規制を整えて…」「EU共通のAI Gigafactory構想で…」という話が中心でした。今回のセッションで語られたのは、それとは少し違う方向の話です。
「EUの応募プロセスを待たずに、3社で動いた」「6週間で立ち上げた」。とにかく実行面の話。しかもそれはすでにミュンヘンで動いており、2.5ヶ月で容量の50%が売約済みという状態。ハノーバーメッセ初日のOpening CeremonyでMerz首相が「産業AIをAI Actのコルセットから切り出す」と宣言した、その翌日。政治側のメッセージの裏にある民間側の実行の現場を、そのまま登壇者の口から聴けた30分でした。
公式のイベント情報はこちらを参照してください。
The Industrial AI Factory: Powering Europe's Next Era of Innovation - Hannover Messe
公式ページのセッション概要には、こう書かれています(訳は筆者)。
欧州初の Industrial AI Cloud は、産業のための新たなオペレーティングシステムを生み出している。デジタルツインとAIエージェントが、実際の生産現場から継続的に学習し、その改善を設計・エンジニアリング・運用へとフィードバックしていく。Siemens、T-Systems、NVIDIAの3社は、産業企業がこの共通クラウド基盤を活用して、孤立したパイロットから、AIで駆動される相互接続された工場へと移行する方法を — 欧州のデータ主権・セキュリティ・規制コンプライアンスを維持しながら — 共有する。
短いステートメントですが、このセッションが何を語る場なのかが凝縮されていて、要するに「孤立したPoCから、産業全体で接続された AI ファクトリーへ。しかもそれを、欧州主権を保った形で」というストーリーです。
本論の前に — そもそも「ソブリンAI」とは
このセッションを読み解くキーワードが 「ソブリンAI(Sovereign AI)」 です。自分も今回のハノーバーメッセに行くまで、日常的に意識する機会はあまりなかったので、軽く整理させてください。
「ソブリン(Sovereign)」 は直訳すると「主権を持った」「自前の」。ソブリンAI は、ざっくり言うと以下の3つを満たすAIインフラを指します。
- データの管轄権 — AI を動かすインフラ(GPU・データセンター)が自国・自地域の領土内にあり、そこで処理・保管されるデータが自国法の管轄下に置かれる
- 外国政府からの遮断 — 米国の CLOUD Act(米国法人なら国外データも開示請求可能)のような他国法による越境アクセスから守られている
- 運営主体の独立性 — インフラを運営する企業が、地元の規制・価値観に従った主体である(外資の100%支配下にない)
要は 「自分たちの大事な産業データを、自分たちの法律と運営の下でAIに使う」 という発想です。
なぜ今、ドイツ・欧州の製造業にとってこれが重要なのか。製造業の競争力の源泉は、長年蓄積してきた現場データ(PLCの稼働ログ、品質検査データ、サプライチェーンの取引履歴など)であり、それを米国製の汎用LLMに無防備に流し込むのは、欧州の産業界にとって受け入れ難いという強い問題意識があります。前日のオープニングセレモニーで Merz首相が「AIで生まれる価値が私たちのエコシステム内に留まる」と語っていたのも、まさにこの思想に立脚した発言です。
今回のセッションは、その「ソブリンAI」を抽象論ではなく、ミュンヘンで実際に動くインフラとして6週間で作ってしまった3社の話、という補助線で読んでもらうと、各登壇者の発言の重みがより伝わると思います。
ソブリンAI自体をもう少し体系的に押さえたい方は、NVIDIA自身による解説(Sovereign AIをグローバル戦略の柱として打ち出している当事者)と、ビジネス文脈で日本と世界の差を整理した解説記事を併せて読むのがおすすめです。
Center Stageと登壇者
Center Stageは、ハノーバーメッセ2026の中央ホール(Hall 17)に設けられた大型ステージで、会期中は欧州の産業AIを語るセッションが途切れなく続きます。
今回のセッションは、T-Systems × Siemens × NVIDIA 3社による Industrial AI Cloud の取り組みを、それぞれの立場から語るパネルディスカッション。登壇者は4名でした。
- Dr. Maja-Olivia Himmer 氏 — T-Systems International, AI Strategy Lead(モデレーター)
- Dr. Ferri Abolhassan 氏 — T-Systems CEO
- Dr. Horst J. Kayser 氏 — Siemens, CEO Factory Automation
- Rev Lebaredian 氏 — NVIDIA, Vice President, Omniverse and Simulation Technology
ここで重要なのは、モデレーターもパネリストの1人(Abolhassan氏)もT-Systems側であること。つまり 「ホスト = T-Systems (Deutsche Telekom傘下)、ゲスト = Siemens と NVIDIA」 という構図です。この組み合わせが何を意味するかは、読み進めてもらえれば自然にわかると思います。

冒頭の映像より
セッションは、3社連携の意義を語る短い映像で始まりました。音声・字幕ともに断片的だったため、引用要約のみ載せておきます。
エンジニア、発明家、ビルダーたちの国で、私たちは産業革命のたびに産業を前進させてきた。いま、私たちは産業データの時代への次の一歩を踏み出す。
Industrial AI Cloud。完全なAIスタック。ロボット、量子、セキュリティ、そしてドイツのAIコンピューティング容量を50%押し上げる計画。独自のエコシステム、ソブリン設計のソフトウェア統合プラットフォーム、特定サービス向けのアプリケーション。6ヶ月でやると約束し、SAPと共にキックオフした。
それはすでに、100%再生可能エネルギーで稼働している。完全なAIスタックが、産業を再発明していく。
(冒頭映像より要約引用)
Himmer氏によるオープニング
映像に続いて、Dr. Maja-Olivia Himmer 氏 が登場します。
Himmer 氏:
いま映像で見ていただいたとおり、AIは家族の生活、製品の設計、そして価値の生み方を変えています。そしてこの変革は、ここドイツで形づくられているのです。
今日のパネルには、Siemens・NVIDIA・Deutsche Telekom という、この数ヶ月をともに駆け抜けてきた3社が集まっています。CES Las Vegasから、2月のミュンヘンでの Industrial AI Cloud ローンチまで。ドイツで最初のソブリンAIファクトリーを、ソブリンティ・セキュリティ・トラスト にフォーカスして構築しました。これは Made for Germany イニシアチブの旗艦プロジェクトです。
目指すところは明確です。欧州の競争力を確保し、AIが生む価値が私たちのエコシステム内に留まること。小さな企業から大きな企業まで、恩恵を受けられるようにすること。今日は、このシフトを動かしているもの、AIファクトリーがどう構築されているか、そして実際の産業アプリケーションでどんな価値が生まれているかを、一緒に紐解いていきましょう。
ステージに3人のパネリストが登壇します。
Himmer 氏:
それぞれご自身の役割と、今日の「産業AI」の議論で何が特にエキサイティングかを、簡単にお話しいただければと思います。Ferri、まずあなたからお願いします。
Abolhassan 氏(T-Systems CEO):
Ferri Abolhassanです。名前の由来をよく聞かれますが、「サイレントな名前」です(笑)。T-Systems CEOで、Deutsche Telekomの取締役会メンバーでもあります。
今日ここにいる3社が成したことは何か。一言で言えば、欧州のAI Gigafactoryの応募プロセスを待たずに、自分たちでやってしまったということです。NVIDIAの最高のハードウェア、Siemensが連れてきてくれたSAPをはじめとする最強のパートナー。そして今、ミュンヘンには、ミッドマーケットからエンタープライズまで、誰もが AI as a Service / GPU as a Service を使える場所がある。これが私にとって一番エキサイティングです。
Kayser 氏(Siemens, Factory Automation CEO):
Horst J. Kayserです。Siemensの Factory Automation事業を率いています。
私たちはハードコアな自動化 — リアルタイム性と決定論的動作が求められる信頼性の高い制御 — から始まり、今や 物理AI(Physical AI) を取り込んだ工場最適化ソリューションまで、世界中に提供しています。両隣のパートナー、つまり セキュアでソブリンな接続インフラ と 大規模GPUコンピューティングのもとで仕事ができることを、心から楽しみにしています。
Lebaredian 氏(NVIDIA, VP Omniverse & Simulation Technology):
Rev Lebaredianです。NVIDIAで Omniverseとシミュレーション技術を率いています。要は「物理AIを構築・運用するためのシミュレーション」が担当領域です。
今日ここで一番ワクワクしているのは、私たちの技術の応用です。NVIDIA自体は単なるコンピューティング企業で、私たちがやっているのはコンピュータと基盤技術をつくることだけです。それが人や産業にとって価値あるものになるには、上のレイヤーを作ってくれるパートナーが不可欠です。
中でも、私たちの技術を 物理世界 — 原子の世界 — に適用してくれるパートナーと組めるのは、一番エキサイティングです。グローバル経済の大半は、結局のところ物理的なもので動いていますから。コンピューティング技術と物理世界がいよいよ融合しはじめている。それがこの3社が持ち寄る魔法だと思っています。

なぜ今、このシフトが起きているのか
Himmer氏の最初の問いは、「世界中で大規模なインフラ投資とソブリンAIへの傾斜が進んでいる。この背後で何が起きているのか?」
Rev氏が先に応えます。
Lebaredian 氏:
これは 新しい産業革命の始まりだと思っています。第二次産業革命は 電気をつくる技術の発明から始まりました。今回の産業革命も、電気から始まる — ただし、それを知能に変換する革命です。そのために必要なのが、特別な種類の工場、AI Factoryです。
数年前、ChatGPTの登場で世界は「知能を生成することの価値」に気づき始めました。ただ、当時はまだ好奇心の対象でした。ここ1〜2年で変わったのは、この技術が現実のデータにgroundされたこと、そして直近では、自律システム — つまり私たちの代わりに何かを実行してくれるエージェントへの応用が始まったことです。
その結果、AI Factoryの生産物である トークンの需要が、桁違いに増えている。既存のインフラ容量では需要を満たせない状態で、それはもう世界中どこでも目に見えています。私たちがSiemensと組んで技術を適用し、Deutsche Telekomがそれを動かすインフラとレイヤーを提供する — この取り組みは、これから立ち上がる需要カーブを支える上でクリティカルなんです。
EUの応募プロセスを待たずにやった — 6週間で立ち上げたソブリンAIクラウド
Himmer氏は次にAbolhassan氏へ。「compute・data・intelligenceが産業の核となる生産要素になる中、それをドイツでソブリンに運用するには何が必要だったのか? ミュンヘンの Industrial AI Cloud は、どうやって立ち上がったのか?」
Abolhassan 氏:
まず前提を整理させてください。欧州には 電力の独立性 という大きな不安があり、他方でChatGPTは産業界にAIの目覚ましを鳴らしました。それなのに、世の中の人は「AI」と聞くと 大規模言語モデル(LLM)を盲目的に見てしまう。
子供のプレゼン作成を手助けする基盤モデルがあるのは素晴らしい。でも、それが本当に産業界が求めているものか? 違います。私たちドイツ・欧州の産業の財産は、産業のデータそのものです。
このデータを大きなファウンデーションモデルで学習させるには、データセンターも、Siemensのようなデータ提供者も、SAPやSiemensのベースモデルも、NVIDIAが持ち込む最新のハードウェアとソフトウェアも、すべてが必要だった。2025年12月の時点では、それらを束ねる場は存在しませんでした。
だから2025年10月、私たちは決めたんです。「EUから大きな応募が来るのを待つ理由がどこにある? 今日やろう」と。4社(T-Systems、NVIDIA、Siemens、SAP)で腰を据えて、「NVIDIAの新ハード・新ソフト、SAPのBTP、その他の基盤を統合したデータセンターを、自分たちで実装する」と決めました。
「Siemensは普段6ヶ月かかる」と言っていたプロジェクト。私たちがかけたのは わずか6週間。11月から1月にかけて、ミュンヘンのデータセンターを完全にリファービッシュ。100%グリーン電力で、NVIDIAの最新Blackwellチップを搭載し、Siemensのデータとノウハウ、SAPも統合済み。フルスタックです。AI Stackと呼んでも、ドイツスタックと呼んでも、Made in Germany と呼んでもいい。本当にそれが起きたんです。6週間でやり切ってくれたチームのメンバーを、私は本当に誇りに思っています。
この事例が示したのは一つ、**「ドイツで、欧州で、やる気になれば物事は動く」**ということです。「データセンターがもっと必要だ」「ハードウェアがもっと必要だ」 — もう言い訳は効かない。他人を待つのではなく、自分たちと手元のデータに集中すべき時です。
Himmer氏がこれを受けて一言でまとめます。
Himmer 氏:
つまりこれは、インフラの話を超えて、ソブリンティそのものの話なんですね。
工場は月2,000テラバイトのデータを吐き出す
次にHimmer氏はKayser氏へ。「Siemens側の役割は? そして実際の製造現場で何が起きているのか?」
Kayser 氏:
私たちSiemensから見ると、安全・セキュア・ソブリンな接続インフラと、NVIDIAベースの強力なGPUが手元にあるのは、本当にありがたいことです。それがあって初めて、製造プロセスから上がってくる膨大なデータを処理し、継続的に最適化し続けられる。
数字でお話ししましょう。1つの工場は、月に約2,000テラバイト — Netflixの映画50万本分 — のデータを生み出します。これをどこかに保管し、次の最適化のために使える形にしておく必要がある。そのためにも、安全・セキュア・ソブリンなインフラと、強力なGPUが不可欠です。
その上で私たちは 物理ベースのシミュレーションモデルを作ります。機械、工場、サイト全体をシミュレーションし、製品からプロセスチェーンまで デジタルツインを構築する。この仮想世界の中で、製造プロセスの バーチャルコミッショニング(仮想立ち上げ) を行う — 1個目のレンガも置かず、CapExを1円も使わずに、プロセスを最適化できるんです。
これをすでに完全に実装した顧客では、実製造設備に投資する前に、全プロセスの90%のバグを潰しています。さらに設計最適化で、同じユーロあたりのパフォーマンスを 最低20%改善。これら全て、私たち自身がNVIDIAのGPUコンピュートを使い、AI Factoryを使って実現していることです。
例えば、当社の ライトハウス工場(World Economic Forumのライトハウス認定工場)では、プロセスシミュレーションから制御最適化まで、エレクトロニクス製造の現場に落とし込んでいます。
そしていよいよ 物理AI の時代に入っていきます。Vision-Language-Actionモデル をロボットと組み合わせ、環境を見て、ワークを拾って、バッグに入れる といった動作を、プログラミングなしでやれる世界。ロボットが状況を認識し、その場で動きを組み立てる — **自律・適応型の製造(Autonomous Adaptive Manufacturing)**です。
今日新しく発表した エンジニアリングエージェント もあります。エージェント型AIで、自動化のエンジニアリングプロセスそのものを自動化する。エンジニアリングのスループットをもう一段引き上げます。
すべては今、現実に動いている。生産性も出ているし、それを支えるインフラもここにある。
Rev氏が補足を入れます。
Lebaredian 氏:
設計・シミュレーション・運用という産業プロセス全体を、GPU上のパラレル計算と同じように並列化しはじめているということですね。連続的なフィードバックループの中に。
2.5ヶ月で容量の50%が売約済み
Himmer氏は続けてAbolhassan氏へ。「Industrial AI Cloudが、実際のエコシステムにもたらしている価値・機会は?」
Abolhassan 氏:
数字でお答えしましょう。1月末に稼働開始して、いま4月中旬。2.5ヶ月で容量の50%がすでに売約済みです。
顧客は ミッドマーケットからエンタープライズまで全レンジに広がっています。
- 自動車メーカー:デジタルツインでのクラッシュテスト(車両衝突の仮想試験)
- ケミカル・製薬:計算集約的な領域でのトライアル
- 法務:大規模な法文書の解析・要約
- 公的部門:自治体・行政のユースケース
- ソブリンで安全なデータスペースを求める エンジニアリング企業全般
みなさん、「このインフラで自社は何ができるか」を実際に試し始めています。Merz首相もスピーチで「まずはデータをモデルに入れる感覚をつかもう」と仰っていましたが、それがまさに今起きている。ローンチからわずか2.5ヶ月で、これだけ巨大な需要が顕在化しているんです。
NVIDIAから見えているエコシステムの広がり
Himmer氏、最後の実例パートはRev氏へ。「NVIDIA側から見て、このAI Factoryの上で特にエキサイティングなイノベーションは?」
Lebaredian 氏:
素晴らしいのは、ドイツ企業がここを使って、本当に新しいことを始めていることです。友人のSiemensだけでなく、幅広い企業で。いくつか挙げさせてください。
- Agile Robots — ロボットの頭脳のためのファウンデーションモデルを構築中
- Wandelbots — シミュレーションで学習データを生成し、コンピュートをデータに変換してAIを訓練
- PhysicsX — AIベースで 物理的に正確なシミュレーション。従来のクラシカルシミュレータでは到達不能なスピードを実現
- SAP — エンタープライズの中核プロセスにAIを適用
- Sophie — ドイツ・欧州のソブリンなChatGPT
ソブリンなコンピュートの上で、ソブリンな目的のためのアプリケーションが、もう動き始めている。そしてこの技術とイノベーションは、今度は世界へ輸出もされていきます。
Abolhassan氏が、名前を追加で重ねます。
Abolhassan 氏:
ServiceNow も常にプラットフォームに乗っていますし、今日もまた別のSAP系企業と契約したところです。未来的に聞こえるかもしれませんが、もうすべて現実になっているんですよ。
Kayser 氏:
まさにその通りで、シミュレーションで作られたものが、もうショップフロアにまで到達している。ポテンシャルがフルに発揮されはじめている状況です。
企業リーダーが今やるべき 一番大事なこと
セッションの最後、Himmer氏が3人に投げかけます。
Himmer 氏:
最後に一つずつ。成功するために、企業に今アドバイスするとしたら、一番大事な一つのこと は何ですか?
Abolhassan 氏:
シンプルです。自社のアセット — データ — を、私たちのファブリックのような場所に持ち込んでください。そこから、あなたのビジネスに効く価値を一緒に作ります。
ChatGPTがLLMで成し遂げたことを、欧州の産業データと、欧州の産業自身でやる。もう言い訳は効きません。欧州の産業プレイヤーなら、みなさんにはデータがある。それを持ち込むか、必要なデータを一緒に探すか、いずれにせよ動くべき時です。
Kayser 氏:
私は基本に立ち返ることをおすすめします。3ステップです。
- 製造のランドスケープが、きちんと自動化され、既存のデジタルツイン上で整理されているかを改めて確認する
- その上に、よく構造化されたデータファブリックを作る
- ここで利用できる 安全・ソブリンなIT + 接続性 + 巨大なGPUインフラ を、エコシステム他社と共に使う
データ共有が広がるほど、モデルは賢くなります。物理AIは、もうプリンティングでもロボティクスでも実装段階に入っています。プランニングやエンジニアリングのツールにもどんどん使うべきです — プロセスを劇的に高速化し、生産性を引き上げます。
材料は揃っている。あとは一緒に組み合わせるだけで、私たちは本当に高い産業競争力を取り戻せると思います。
Lebaredian 氏:
ここ 数週間 — 数ヶ月ではなく数週間 — で、AIの能力に ステップ関数的な変化 が起きました。**エージェンティックAI(Agentic AI)**です。ほとんどの人が、この意味をまだ飲み込めていないと思います。
今まで人間にしかできなかった仕事を、エージェントが行うようになる。一番インパクトが大きいのは コーディングエージェント です。ソフトウェア開発は、これまで禁じ手的に高コストでした。世界中で「作りたいソフトウェア」の大半が、作られないまま放置されてきた。コストがかかりすぎるし、そもそも世界中にコーダーが足りていないから。
それが、今、変わりました。誰でもコーダーを持てる時代です。そして同じエージェントが、シミュレーションの世界にも来ます。私たちは長年、「シミュレーションを正しく設定できる専門家の人数」がボトルネックでした。そのボトルネックが、エージェントによって外れる。
だからみなさん、とにかく 触ってみてください、試してみてください。これは本当に新しい何かで、私たちもまだ学び始めたところです。「エキスパート人材に詰まっていた場所」が、もうボトルネックではなくなる。ということは、会社が行うすべての活動を、これからは増幅できるようになる、ということです。
Himmer 氏:
素晴らしいディスカッションをありがとうございました。ソブリンでセキュアなインフラ、強固なパートナーエコシステム、そして 実際の産業アプリケーションを通じて、Industrial AIが欧州の次のイノベーション時代をどう動かしていくのか、たくさんのヒントをいただきました。パネリストのみなさん、そしてお集まりの皆様に、改めて感謝いたします。
参加してみて強く感じた「自国で完結させようとする強い意志」
そもそもこのソブリンAIという単語を初めて聞いたということを冒頭書きましたが、それを徹頭徹尾企業横断で実現しようとしている3社の取り組みに強い意志を感じました。
欧州の産業戦略といえば、これまで「EUでの合意形成 → 予算配分 → 各国プロジェクト」という長い道のりが当たり前でした。そのプロセスの遅さが、米中との競争で欧州が後手に回る要因として、ずっと語られてきた。けれどこのセッションで語られたのは、「EUの応募プロセスを待たずに、T-Systems・Siemens・NVIDIAの3社だけで、6週間で立ち上げた」 というストーリーです。「民間側は、もうEUを待っていない」というメッセージが、3者3様の言葉から明確に伝わってきました。
もう一つ興味深かったのは、このプロジェクトが Made for Germanyイニシアチブの旗艦プロジェクト として位置づけられていること。前日のOpening Ceremonyで、Merz首相が「126社・8,000億ユーロ」のコミットメントを語り、その中で産業AIのためのデータセンター戦略を所管するDorothee Bär大臣に言及していました。その政治的パッケージの具体的な中身の一つが、まさにこの T-Systems Industrial AI Cloud だったわけです。政治と産業がここまでピタッと連動しているのが、欧州の本気度を示していると改めて感じました。
そして個人的に一番残ったのは、Rev氏の最後の言葉。
エキスパート人材がボトルネックだった領域で、そのボトルネックが外れる。
これは、製造業DXの現場感覚とも深く響きます。日本の製造業でも、「シミュレーションできる人が足りない」「データサイエンティストが足りない」「PLCや制御のわかる人が足りない」と、常に人材ボトルネックの話になる。エージェンティックAIが、この人材の壁を溶かし始めている — これは、日本の製造業のお客様と話すときも、頭に置いておきたいキーワードだと感じました。
AWSを普段生業にしている立場からこのセッションを聴いていて素直に感じたのは、「ソブリンAIクラウド × 産業特化 × パートナーシップ主導」という三位一体の打ち出し方の鮮明さです。AWSも European Sovereign Cloud を進めている中で、欧州の産業エコシステム側が先に 自分たちのIndustrial AI Cloud をこれだけ具体に立ち上げてきている。
ハノーバーメッセの会場に非常に大きくブースを出していたAWSやMicrosoftなどのパブリッククラウド側のアプローチと、この欧州産業エコシステム主導のアプローチがどう交わっていくのか、2026〜2027年の注目ポイントになりそうです。
それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。









