
スマートファクトリー推進の羅針盤となる良書「スマートファクトリー構築ハンドブック」
「製造業って本当に奥深い…」
製造業のDX支援に携わっていて、常々感じていることです。関わる人が多く、工程も多彩。リアルな「モノ」と「人」が関係するからこそ、IT導入も一筋縄ではいかない場合が多い。
そんな課題感を抱えていたときに出会ったのが、今回紹介する「スマートファクトリー構築ハンドブック」。改めてデジタル(DX)の側面から工場を理解するという観点は非常にわかりやすく、スマートファクトリー化の推進に向けた全体像を非常にクリアに体系立てて説明してくれていて本当に良い本でした。
本記事では、この書籍のエッセンスを紹介していきます。
書籍紹介「スマートファクトリー構築ハンドブック」

ハマコーの机の上にて
【目次】
第1章 製造業を取り巻く環境変化と課題
第2章 DX の加速がスマートファクトリー構築のカギになる
第3章 トライ&エラーで現場の課題を解決する~課題解決領域の取り組み~
第4章 自社工場をスマートファクトリー化せよ!~最適化領域の取り組み~
第5章 スマートファクトリーイメージセルでめざす工場の姿を実現する
第6章 スマートファクトリーを実現するメソッド「TAKUETSU PLANT」
第7章 スマートファクトリー構築の事例
第8章 スマートファクトリー構築を支えるデジタル人材
第9章 スマートファクトリー構築の展開
おわりに(特別寄稿)スマートファクトリー時代の「良い流れ」づくり
ハマコーなりの注目ポイント
ここしばらく、いろんなプリセールスや商談での顧客との会話で心底思うのは、製造業DXの文脈で「あるべき姿や目指したい将来像を明確に定義して、組織全体がその将来像に向かって進んでいく」ということが、本当に難しいということです。
関連部署や関係者が多く、現場課題も様々な中で、部分最適を積み上げながら各社模索を続けているのが実状だと思います。だとしても、スマートファクトリー推進の全体像をうまく整理して伝え顧客と同じ目標を目指す努力は、我々ベンダー側としても必須の姿勢です。
この「スマートファクトリー構築ハンドブック」はスマートファクトリーのコンセプト設計から実装までを支援するためのフレームワークと検討ステップがまとめられた一冊になっていて、その知識習得に最適な内容となっています。
以下、自分が気になったところを中心に、書籍の内容を紹介させていただきます。
第2章 DXの加速がスマートファクトリー構築のカギになる
一口に製造業のDX推進といっても多様な側面があるなかで、この本ではその取組が3つの領域で整理されています。こういう区分けはあまりこれまで意識できていなかったのですが、改めて考えてみると実際の現場の課題は「課題解決領域」に偏っていることが多いなと感じます。

JMAC(日本能率協会コンサルティング)の調査結果も書籍では引用されているので合わせて参照してみてください。各領域の取組状況が把握できます。
製造業におけるデジタル化の推進状況 | GO! JMAC | IoT Cousulting Service[ICS]
課題解決領域の取組推進はよく現場主導型の「ボトムアップ」アプローチが採用されがちですが、本書では、デザインアプローチが推奨されています。
第3章 トライ&エラーで現場の課題を解決する 〜課題解決領域の取り組み〜
この章、本当にあるあるが詰まっていて読んでいてめちゃくちゃ面白かったです。
「せっかくデジタルツールを導入したのに、現場が使ってくれないんですよ」
(中略)
象徴的なのは、現場の業務を熟知していない情報システム部門がデジタルツールの導入を主導するケースです。
DX推進を担当している方は、3000回ぐらいこんな話を聞いていると思います。
改めて関係者(現場の人、IT導入の人、ベンダー等)で、課題解決領域への取り組みを一本化し認識齟齬をなくすためのツールとして紹介されているのがIoT 7つ道具。

詳細はこちらのサイトで紹介されています。現場の改善活動活性化に向けた7つの視点が整理されているので、これを元に検討していけば、目線を揃えて課題に対する議論がしやすいのではないでしょうか。
特に、こちらで紹介されているIoT 7つ道具活用チェックシート(現場管理)は、それぞれの道具領域において各項目を以下3つの評価基準で評価していく内容となってます。
- A:すぐに行いたい(最優先課題)
- B:検討してみたい(効果次第)
- C:あまり必要ない
現場の課題解決領域の取り組みに絞ったとしても、役割や組織によって課題認識しているポイントは絶対違うので、網羅的に棚卸しして関係者の目線を揃えるためにも、こういったツールを活用するのは有用だと感じます。
チェックシートはこちらからダウンロードできます。
【2025年7月版】IoT7つ道具認定製品掲載の冊子 | GO! JMAC | IoT Cousulting Service[ICS]
第4章 自社工場をスマートファクトリー化せよ! 〜最適化領域の取り組み〜
ここからが本書の本番です。
スマートファクトリーを構築するには、ものづくりの仕組み全体、さらにはサプライチェーンを含めた広範囲に視座を上げて改革に取り組んでいく必要があります。
第3章の現場の課題解決を推進していくだけでは、スマートファクトリー化は到達できないと言っています。
この章にも非常によくある失敗例が取り上げられています。少し長くなりますが、引用します。
「最適化領域」でよくある失敗:ツール起点の罠
社長の号令のもとスマートファクトリー化プロジェクトが発足したC社の事例。推進担当者に任命されたZさんは、手始めに展示会に足を運んで情報収集を開始。
展示会のブースで最先端のデジタルツールを体験すると、やりたいイメージがめっちゃ湧いてきます。
- VRを使った新人教育ができそう
- AI活用で品質検査の自動化
- 従業員全員にタブレットを配布してリアルタイム作業指示で実績入力
- 工場全体にビーコンやセンサーを張り巡らせて、人やものの位置・動線を見える化
- カラーバーコードで資材入出庫のミスを無くす
- データをクラウド上で一元管理してKPIを見える化
展示会で見聞きしたデジタルツールを組み合わせたスマートファクトリー構想をぶち上げます!
...が、社長プレゼンすると、厳しいお言葉が。
- 「工場で解決すべき優先課題は何?」
- 「ここに挙げたツールがベストなのか?」
- 「投資対効果は?」
- 「必要十分な施策は出尽くしているのか?もっと優先すべきものは?」
最大の失敗要因は「ツール起点」でスマートファクトリー構想を描いたこと。スマートファクトリー構築において、このような「可能性発掘型」アプローチは、残念ながら失敗するケースが大半
このような現場を、100万回ぐらい見た方も多いのではないでしょうか。ツールの導入は手段であって目的ではないという至極当然の話しですね。スマートファクトリーの答えは一つではないため、各会社の経営課題に立脚した「自社のベスト」を考える必要があります。
ただ、実際にこれをやるのもなにもないところから検討するのは整理が難しいため、本書で提供されているのがスマートファクトリーイメージセル。

これが本当に素晴らしい!!
製造現場の人にヒアリングしても、自分の業務には精通しているが他工程のことを殆ど知らないということも多いと思うのですが、これは筆者が製造業に係る個別の課題を抽出して共通項として整理したものになっています。
これが全部で50個あり、これを活用しながら自社の目指す姿を検討するという使い方ができます。IoT 7つ道具でも網羅的に課題を整理するためのチェックシートを紹介しましたが、よりハイレイヤーの最適化領域でもこのようなイメージセルがあるだけで、あるべき姿の策定に非常に役に立つのではないでしょうか。
この章では、後半で実際にイメージセルの活用の進め方が事例として紹介されています。
第5章 スマートファクトリーイメージセルでめざす工場の姿を実現する
第4章で紹介された各イメージセルの詳細(50個!)がここで個別に解説されています。各ページ現状と未来像が提示されているので、それぞれをどのレベルで目指すのかが非常に整理しやすい構造になっています。

第6章 スマートファクトリーを実現するメソッド「TAKUETSU PLANT」
第4章〜第5章で策定されたビジョンを具体化していくための検討手法について紹介されている章。根本的な全体最適化を目指した工場のスマートファクトリー化は、簡単に進むものではないということは皆さんイメージがつくと思うのですが、実際の工場の新設やリニューアルに絡めてプロジェクトの具体的な進め方が紹介されています。
こちらのサイトでもメソッドの内容について紹介されています。
この章を受けて、第7章には実際のスマートファクトリー構築の3社の事例が紹介されています。新工場の企画構想から事例として記載されているので、参考になります。実際に進めるには本当にタフな作業だと思うのですが、構想をフェーズに分けて解説してくれているのが非常に親切ですね。
膨大な経験値が一冊の書籍にまとまっている素晴らしさ
というわけで、「スマートファクトリー構築ハンドブック」の紹介でした。
製造業のDXは複雑で難しいテーマですが、本書で紹介されているフレームワークを活用することで、全体像を把握しながら取り組みを進めることができると感じます。
こういうテーマを進める時に現場ヒアリングは非常に重要ですが、闇雲に現場訪問を重ねるよりも、こういったアプローチで仮説を持ちながら検討を進めることで、プロジェクトを効率的に進めつつより大きな観点から現場の声を拾うことができるのではないでしょうか
- デジタル化の3つの領域(課題解決・最適化・価値創造)
- 現場IoT 7つ道具による課題整理
- ツール起点ではなくデザインアプローチ
- 5つのチェーンによる事業プロセスの俯瞰
- ファクトリーイメージセルによる検討の方向性の整理
製造業のDX支援に携わる方、これから製造業向けのソリューション提案を行う方、両者にとって必ず学びになる本だと思うので、気になった方は手に取っていただくことをオススメします。
それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。
製造業アドベントカレンダー 2025の紹介
この記事は下記企画の22日目の記事です。製造業に携わる方向けにクラスメソッドの製造ビジネステクノロジー部のメンバーが様々な記事を執筆しているので、ぜひこちらもご参照ください。






