
スマートファクトリーの第一歩 〜AWSマネージドサービスで 実現する予知保全と生成AI活用まで #devio2025
2025 年 09 月 03 日に開催された「DevelopersIO 2025 Osaka」にて 「スマートファクトリーの第一歩 〜AWSマネージドサービスで 実現する予知保全と生成AI活用まで」 というタイトルで登壇しました。
セッションスライド
当日の発表で利用した資料は下記で公開しています。
工場データ活用の技術的な課題
技術的な話に入る前に、工場データの活用においてよく聞く課題について、簡単に振り返ってみるところからスタートします。
工場では、搬送、加工、検査、仕分けなど、各工程で様々な設備機器が動いています。
これらの機器は異なるメーカー製であることが多く、データを取得するための通信プロトコルも OPC UA、Modbus TCP、CC-Link、PROFINET など、機器やメーカー、センサーごとにバラバラであることが多くあります。
そのため、これらの異なるプロトコルからどうやってデータを一元的に収集するのか、という課題が最初に出てきます。
さらに、データを収集できたとしても、どうやってクラウドに送るのか、という次の課題が出てきます。インターネット経由で良いのか、閉域網が必要なのか、通信は暗号化すべきか、認証はどうするのか、といったセキュリティの懸念です。
また、もしネットワークが切断されたら、その間のデータは失われても良いのか、それともデバイス側でバッファリングして復旧時に再送すべきか、など、データ活用を考えるだけでも多くの技術的な課題が存在します。
AWS IoT SiteWise の特徴
こうした工場のデータ活用における課題を解決するサービスとして、AWS IoT SiteWise があります。産業機器からデータを収集、整理、分析するための一連の機能を提供するマネージドサービスです。
AWS IoT SiteWise は、クラウド側のサービスと、工場の現場(エッジ)で動作するゲートウェイアプリケーションを組み合わせて利用します。
主な特徴は以下の通りです。
- 産業用プロトコルでのデータ収集:
- PLC(製造設備を制御するコントローラー)などから、OPC UA などの産業用通信プロトコルを直接使ってデータを収集し、AWSに連携できます
- 簡易な可視化機能 (SiteWise Monitor):
- 収集したデータを簡単に可視化できる「SiteWise Monitor」という機能が付属しています。マウスのドラッグ&ドロップでダッシュボードを作成でき、PoC(概念実証)や小規模な可視化に便利です。
- セキュリティ:
- OPC UA サーバーへの接続時に、パスワード認証や証明書による相互認証といったセキュリティ機能に対応しています。
- エラー時のデータバッファリング:
- クラウドとの通信が切断された場合、ゲートウェイ側で最大30日間のデータをローカルにバッファリングし、通信復旧時に自動で再送する機能を持っています。
SiteWise ゲートウェイが、現場の機器からのデータ収集と AWS への転送を担当します。
OPC UA や Modbus TCP といった標準的なプロトコルに加え、例えば日本国内でシェアの大きい三菱電機製 PLC の独自プロトコル「SLMP」などからもデータを集約できます。
ユーザーは、これらのプロトコルを MQTTS や HTTPS といったクラウド向けのプロトコルに変換する実装を自分で行う必要がありません。
AWS IoT SiteWise は、収集したデータを他の AWS サービスと簡単に連携させることもできます。
- AWS IoT Core:
- AWS IoT SiteWise で受信したデータを AWS IoT Core に簡単にデータを転送できます。
- 各種 AWS サービス:
- IoT Core から IoT ルールという機能を経由して、AWS Lambda で処理を行ったり、Amazon Kinesis Data Firehose を通じて Amazon S3 にデータを保存し、Amazon QuickSight で BI ダッシュボードとして分析・可視化することができます。
- Grafana:
- SiteWise Monitor だけでなく、オープンソースのダッシュボードツールである Grafana(Amazon Managed Grafana 含む)にも標準のプラグインで対応しており、より高度な可視化が可能です。
また、2024年9月のリリースにより、100種類以上のプロトコルをサポートする Litmus Edge Software とも簡単に連携できるようになりました。これにより、工場内に多種多様なプロトコルが混在している場合でも、SiteWise によって一元的にデータを収集することが容易になります。
AWS IoT SiteWise による異常検知
次に、SiteWise の新機能である異常検知についてご紹介します。
この機能は、2025年7月28日にリリースされたばかりの新機能で、SiteWise に収集したデータを使って設備機器などの異常を検出することができます。
従来、AWS には「Amazon Lookout for Equipment」という同様のサービスがありましたが、現在は新規の利用が停止されています。そのため、ユーザーが異常検知を実装するには Amazon SageMaker などを使って自ら機械学習モデルを開発する必要があり、ハードルが高い状態でした。
この機能は、コーディングや機械学習の専門的な知識が不要で、簡単に異常検知を始められるという点で非常にインパクトのあるアップデートだと思っています。
また、この種類のサービスでは事前に膨大な学習用のデータが必要になることがありますが、最低14日間のトレーニングデータがあれば、機械学習モデルを自動で作成し推論を実行できます。
他の類似サービスでは推論スケジュールが「1時間に1回」など固定的な場合がありますが、SiteWise の異常検知では、ユーザーのニーズに合わせて柔軟なスケジュールを組むことができます。
AWS IoT Core との連携例
AWS IoT SiteWise は、異常検知の推論結果も AWS IoT Core に簡単に連携できます。
これにより、例えば「推論された異常スコアが一定のしきい値を超えたら」という条件で IoT ルールを起動し、Amazon SNS 経由で担当者にメール通知する、といった仕組みを簡単に構築することができます。
AI を使った異常検知・分析の利用例
セッションの後半では、SiteWise Assistant やその他のサービスを使った AIによる異常検知・分析のパターンをいくつかご紹介しました。
AWS IoT SiteWise Assistant
SiteWise に蓄積されたデータに対して、生成AIを使って自然言語で質問や分析ができる機能です。
SiteWise Monitor に組み込まれており、AI アシスタントとして利用できます。
例えば、画面に表示されているデータについて「今の状況はどうなっているか?」と質問したり、トラブル発生時に「トラブルシュートの手順を教えて」と指示したりすることが可能です。
注意点として、この機能は Amazon Kendra を RAG (Retrieval-Augmented Generation) のインデックスとして利用するため、Kendra のサービス料金が別途発生します。実際に利用する際は料金にご注意ください。
MCPを活用するケース(Model Context Protocol)
既存のサービスを組み合わせてシンプルに AI 分析を実現する例をご紹介しました。
まず、センサーデータを AWS IoT Core 経由で「Amazon Timestream for InfluxDB」のような時系列データベースに蓄積します。
Timestream for InfluxDB は MCP (Model Context Protocol) サーバー機能を提供しているため、Claude Desktop のような AI クライアントから MCP 経由で接続します。
これにより、ユーザーは AI クライアントに対して「稼働状況を教えて」といった自然言語での問いかけができます。AI クライアントは Timestream 上のデータを参照し、分析結果を自然言語で回答してくれます。
リアルタイム異常検知
少し変わったパターンとして、Amazon Managed Service for Apache Flink を利用したリアルタイム異常検知もご紹介しました。
これは、ストリーミングされてくるデータに対して、Apache Flink 上で「ランダムカットフォレスト」というアルゴリズムを使ってリアルタイムに異常推論を行う構成です。
この構成の特徴は、しきい値ベースの固定的な判定ではない点です。
例えば「午前中は高稼働」「午後は低稼働」といった設備のパターンがある場合、一般的な「しきい値」での監視では、うまく異常を検知できません。
「しきい値」ベースの監視ではうまくできない、と書きましたが実装次第で近いことは実現可能です。
例えば、午前と午後で2つの「しきい値」を用意して、監視通知を午前と午後で切り替えるような仕組みを実装できれば、実現できそうです。
しかし、稼働状況は季節などによっても変動する可能性があるため、常に「しきい値」の調整が必要になるかと思います。
ランダムカットフォレストを使うことで、連続的に入ってくるデータのパターン(午前中の動き、午後の動きなど)を自動で学習し、そのパターンから外れた突発的なデータを「異常」として検出できます。
過去に振動機のデータを取り込み、異常傾向が発生したら回転灯を鳴動させるデモを作ったことがあります。
この時、低振動の状態で瞬間的に高振動にすると異常を検知しました。また、徐々に振動を大きくした状態で瞬間的に振動数を下げても異常として検知することができました。
徐々に振動数を上げるときは異常を検知せず、振動数が安定した状態で瞬間的に振動値を低くすると異常を検知できる、という点がポイントです。
その他のサービスや実現方法
時間の関係で詳細は割愛しましたが、他にも以下のようなサービスを利用するパターンも考えられます。
まとめ
本セッションでお伝えしたことの「まとめ」です。
- AWS IoT SiteWise は、製造業におけるデータ活用をサポートする専門的なサービスです。
- AWS IoT SiteWise の新しい異常検出機能により、コーディング不要で簡単に異常検出を開始できます。
- 用途に応じて、Managed Flink や SageMaker など他のサービス利用も検討できますが、一部開発が必要になるケースもあります。
- 既存の仕組みやサービスをうまく活用することで、スモールスタートで生成AIを活用したデータ分析基盤を作成することが可能です。
私の登壇は B トラックの最後だったのですが、思った以上に多くの方に聞いていただきました。
この記事がどなたかの参考になれば幸いです。
以上です。