【iOS 27】飲食チェーンの衛生記録を、冷蔵庫の温度計を撮るだけで済ませる

【iOS 27】飲食チェーンの衛生記録を、冷蔵庫の温度計を撮るだけで済ませる

飲食店の温度記録は今、紙やタブレットへの手入力が中心です。iPhoneのカメラで温度計を撮るだけで、AIが数値を読み取って記録できる仕組みを考えてみました。

こんにちは。リテールアプリ共創部で事業企画を担当しているかめだです。

全国に数百店舗を展開している飲食チェーンでは、冷蔵庫や冷凍庫の温度、加熱の中心温度、消毒の実施を、毎日決まった時刻に記録しています。多くのチェーンが、HACCPの考え方に沿ってこの記録を続けています。

スタッフは冷蔵庫と冷凍庫の温度を開店前と閉店前に確認し、調理では中心温度を1品ごとに測ります。消毒も使うたびに実施の有無を記録するため、1日に何度も記録することになります。

記録の方法は、紙のチェックシートか、店舗のタブレットへの手入力が中心だと聞きます。スタッフは開店前や閉店前の忙しい時間に、温度計の数字を目で読み、様式に書き写しています。

厚生労働省は、衛生管理計画と日々の実施記録をスマートフォンやタブレットで付けられる「HACCP衛生管理記録アプリ」を公開しています(小規模な一般飲食店向け)。チェーン向けの記録アプリには、多店舗の記録実施率やアラート件数を本部のダッシュボードで見られるものもあります。温度計をスマホで撮って生成AIが数値を読み取る事例もすでにあり、こちらはクラウドのAIを呼んでいます。

記録のアプリ化は進んでいて、残っているのは温度計の数字を人が読んで打つところです。紙からアプリに変わっても、数字を読んで指で入力する転記作業は残っています。バックヤードは冷蔵庫や什器に囲まれていて、電波が弱いことも多くあります。

店舗は紙の記録を一定期間保管し、本部から求められたらすぐに出せるように管理します。店舗数が多いチェーンほど、保管と管理にも手間がかかります。

この課題に、iPhoneのカメラで温度計の表示を撮るだけで、冷蔵庫・冷凍庫の温度を読んで書き写す作業が済むのではないかと考えています。

保健所の立ち入りの日に、記録が足りないと何が起きるのか?

記録に不備があれば改善を求められます。

立ち入りは事前に日程が伝えられる場合も、抜き打ちの場合もあります。保健所はこれまでの記録を確認するため、店舗は毎日記録を続ける必要があります。

保健所は数値に加えて、測定時刻、記録した人、記録のタイミングが実際の作業と合っているかも確認します。忙しい時間帯の手書きでは、スタッフが書き忘れたり、書き間違えたりすることもあります。

不備が繰り返されると、保健所の指導内容も厳しくなります。多店舗展開のチェーンでは、1店舗の不備から、チェーン全体の運営姿勢を問われる可能性もあります。

今の記録は、どこに手間がかかっているのか?

スタッフが温度計の数字を読み、様式に書き写す作業に手間がかかっています。読み間違いや書き間違いも、この転記の場面で起きます。

冷蔵庫と冷凍庫だけでも、確認は1日に朝と夜の2回です。調理のたびに中心温度を測る店舗では、記録の回数がさらに増えます。

本部の担当者は、全店舗から届く紙のチェックシートやタブレットの入力内容をまとめ、立ち入りに備えて確認します。店舗数に比例して確認作業も増え、紙の場合はどの店舗の記録が揃い、どの店舗で抜けているかを把握するだけでも時間がかかります。

温度計を撮ってAIに読み取らせる方法自体は、先に触れたとおりクラウドのAIですでにあります。

それでも全店舗に広がっていないのは、記録を取る場所の事情です。温度計が置かれたバックヤードは電波が弱く、撮ったその場でクラウドに送れないことがあります。開店前と閉店前という決まった時刻に記録する運用では、その場で終わらない手順は使われなくなります。

費用の見積もりも立てにくくなります。全店舗×毎日2回以上×記録項目数という呼び出し回数に従量課金がかかると、出店・閉店のたびに見積もりをやり直すことになります。端末内で処理を終えれば、この呼び出しごとの費用はかかりません。対応端末の調達、アプリの開発、運用にかかる費用は別に見積もります。

読み取りの精度が十分でも、この2つの事情で全店舗に導入できない状況が続いてきました。

端末内を選ばない条件もあります。支給端末を店舗にそろえられない、温度計の機種が多く読み取りの精度が出ない、いまの記録アプリで費用と電波が問題になっていない、のいずれかに当たるなら、端末内ではなくクラウドの仕組みかいまの運用を続ける方が合っています。

温度計を撮るだけで記録は書けるのか?

書けます。温度計を撮ると、読み取った数値が記録様式の項目に入り、下書きになります。ここまでを端末内のAIで終えられます。

写真を撮ると、読み取った数値と、撮影時にアプリが記録した時刻が様式に入る設計です。店長がその内容を確認し、記録を確定します。

iPhoneの中だけで動くAIの仕組みと画像の渡し方はApple Intelligence でアプリづくりは何が変わるのか(AFM 3 の全体像)Attachment で画像をプロンプトに添付する(Foundation Models の画像入力)、文字や数字の読み取りに使う標準ツールはAI にツールを持たせる(OCRTool・バーコード・端末内検索)で紹介されています。

対応端末・費用などの共通の前提は、iPhoneの中でAIが動くと、どの業界の何が変わるのか(Apple Intelligence 業界別活用マップ)の「どの業務にも共通する前提」にまとめています。

置き換える順番と、店舗・本部の手順

どの記録項目から置き換えるか?

まず冷蔵庫と冷凍庫の温度から始めます。開店前と閉店前という決まった時刻に測る項目なので、撮って確定するという新しい手順に慣れやすいからです。

この2項目で運用が続くことを確認してから、中心温度に広げます。中心温度は調理のたびに測るため、忙しい作業の合間にiPhoneを取り出して撮る手順が必要になり、冷蔵庫・冷凍庫より現場の負担が大きくなります。消毒の実施記録は数値ではなく実施の有無を残すもので、記録する内容が温度と違うため、さらに後で広げます。すべての項目を一度に置き換えると、現場が混乱する可能性があります。

冷凍庫の表示は氷点下になることが多く、マイナスの符号や小数点を読み違えないかは、実際の温度計で確かめる必要があります。まずは冷蔵庫と冷凍庫という、日々の値の幅が狭い項目で読み取りの精度を見てから、次の項目に進みます。

店舗展開も一度には広げません。対応する店舗のうち数店舗で運用を確認してから、他の店舗に広げます。対応していない店舗は、これまでどおり紙かタブレットへの手入力を続け、対応が進んだ店舗から順に切り替えます。

早番が撮った温度を、出勤前の店長はどう確定するのか?

スタッフは画面で冷蔵庫A、冷凍庫Bなど、店舗ごとのチェック項目を選び、温度計を撮ります。距離や角度によっては表示を読み取れないため、画面の枠に表示部分を合わせるなど、撮り方の決まりも設けます。読み取れなかったときは、撮り直すか、手で入力します。

読み取った数値と時刻は、その場で画面に下書きとして表示します。下書き画面には、元の写真と読み取った数値を並べて表示します。店長がこの画面で数値を確認し、「確定」ボタンを押すと、その日の記録として様式に残ります。

開店直後の確認は早番のスタッフが担当することが多く、店長がまだ出勤していない時間帯もあります。その場合は下書きのまま残しておき、店長が出勤後に確認して確定します。撮った人と確定する人が別の時間帯になる運用です。

閉店前の確認も同じ手順にします。遅番のスタッフが閉店作業の中で撮影し、店長がその日のうちに確認して確定します。開店前と閉店前で担当者が違っても、下書き一覧を見れば誰が何を撮ったかが分かるので、店長は自分で全部を撮り直す必要がありません。下書きが確定されないまま残っている項目があれば、一覧の上に表示して見落としを防ぎます。

1件の記録には、次の情報を残します。

  • チェック項目名
  • 読み取った数値
  • 撮影した時刻
  • 撮影したスタッフ
  • 確認して確定した店長
  • 確定した時刻

撮影時刻と確定時刻を分けて残しておくと、閉店後にまとめて数字を埋めたのか、その場で撮って確定したのかを、後から区別できます。

基準を外れたとき、誰が何をするのか?

その場にいる担当者が、自社の衛生管理計画に沿って対応し、記録します。店長は後から確認します。

数値が基準の範囲を外れた場合、AIは画面に「要確認」と表示するところまでを行います。対応は、冷蔵庫の設定温度を見直す、食材を別の場所へ移す、本部に連絡する、のいずれかです。どれにするかは、その場の状況を見た担当者が決めます。店長不在の時間帯はその場の担当者が対応し、店長が出勤後に確認して確定します。AIが自動で設定を変えたり、食材を廃棄したりすることはありません。食材を移すなど、その場でやり直しがきく処置はその場の担当者が行い、設定の見直しや本部連絡のように後から取り消せない対応は店長の確認を待ちます。廃棄や設定変更は取り消せないので、判断は人が行います。

確定するときには、要確認だったことと店長のコメントも一緒に残せるようにしておくと、後から状況を確認できます。

本部は、立ち入り前に全店舗の確定状況をどう見るか

本部の担当者が、どの店舗の記録が確定済みで、どの店舗が要確認のまま残っているかを、店舗ごとに一覧で見られる画面を用意します。一覧には店舗名、その日の確定件数、要確認のまま残っている件数、最後に確定した時刻を並べます。今は紙やタブレットの記録を店舗ごとに開いて確認していますが、確定状況が一覧になれば、要確認が残っている店舗から先に電話で状況を確認するといった、優先順位をつけた準備ができます。

立ち入りの前だけでなく、日々の運用でも使えます。閉店時刻を過ぎても確定件数が増えていない店舗があれば、記録漏れの可能性があると本部が気づけます。

電波が弱いバックヤードで、記録は止まらないか?

撮影と読み取りはiPhoneの中で完結するため、バックヤードの電波が弱くても記録の作業は進められます。本部の様式や衛生管理システムへの送信は、電波が戻ってから行います。閉店時にスタッフルームへ移動したタイミングで、その日の分をまとめて1回で送信する設計にします。

端末に残る未送信件数を店舗側で確認できるようにしておけば、未送信と未記録を区別できます。要確認が出ていない日は閉店時の一括送信で足り、要確認が出た日はその場で送信します。

写真は温度計の表示部分だけが写るように撮る運用にします。写真が大きいほど、AIに渡す情報量が増え、処理にも時間がかかるからです。

1店舗、冷蔵庫と冷凍庫の温度から始める

まず1店舗、対応端末(iPhone 15 Pro/Pro Max か iPhone 16 以降)がそろい、Apple Intelligence をオンにできる店舗を選び、冷蔵庫と冷凍庫の開店前・閉店前の記録だけで試します。項目を絞るのは、撮って確定するという新しい手順そのものに、まずスタッフと店長が慣れる必要があるからです。中心温度や消毒の記録は、この1店舗で運用が続くことを確認してから広げます。

試作は自社の開発部門か開発会社に、撮る、下書きにする、確認して確定する、までの最小の画面を頼むところから始めます。

試す期間を決め、その間の総件数について次の表で継続を判断します。

見るもの 広げる 直してもう一度試す 見送る(いまの運用に戻す)
正解の数値と一致した割合 従来の手入力と同じか高い 従来よりやや低いが、外れ方が特定の項目・機種に偏っている 低く、外れ方にばらつきがある
読み取れなかった割合(機種・項目別) 少なく、特定の機種に偏っていない 特定の機種・項目だけ多い 多くの機種・項目で読み取れない
撮影から確定までの実作業時間(店長の出勤待ちは除く) 従来の手入力より短い 同じくらい 従来より長い
要確認が出たときの対応の記録が残っている割合 ほぼすべて残っている 一部抜けがあるが原因が分かる 抜けが多く、誰が対応したか分からない
支給端末の対応比率 十分にそろっている 少ないが増やせる見込みがある 少なく、増やせる見込みがない

この表は試す前に埋めておきます。結果を見てから基準を決めると、結果に合わせた基準になります。

始めるために用意するものは次のとおりです。

  • 対応端末(iPhone 15 Pro/Pro Max か iPhone 16 以降)がそろっている店舗
  • 自社の記録様式にある項目の一覧
  • 店舗で使っている温度計の機種一覧
  • お手本にする温度計の写真と、正しい数値の組を数十件

このお手本があると、読み取りがどこまで合っているかを、試す前に机上で確かめられます。

1店舗で検証データが集まったら、次は同じ対応端末がそろっている店舗に対象を広げます。店舗を広げる基準を費用ではなく検証の進み具合で説明できるのは、端末の中で処理が完結する設計だからだと考えています。ただし対応端末の調達、アプリの開発、運用の費用は別に見積もります。

よくある質問

温度計の機種が店舗ごとに違っても読み取れますか?

まだ検証していません。表示形式が大きく異なる場合は、読み取り方の調整が必要になる可能性があります。店舗ごとに機種が異なるなら、まず台数の多い機種で試します。

この仕組みで記録の改ざんを防げますか?

防げるとは言えません。店長が数値を確認して確定する手順で減らせるのは、書き間違いや転記ミスです。意図的な書き換えへの対策が必要なら、別の仕組みを用意します。

HACCPの様式に合わせられますか?

様式はチェーンや店舗ごとに項目や書き方が違うため、既存の様式に出力を合わせ込む作業は別途必要になります。まずは自社の様式にある項目のうち、冷蔵庫・冷凍庫の温度など数値を測る項目から、どこまで対応できるかを確認するところから始めます。

参考

では、おつかめ!

--

クラスメソッドでは、既存スマホアプリをFlutterでiOS/Android同時に作り直し、バックエンドはAWSで再構築する「AI駆動アプリリニューアル」を提供しています。現行アプリの仕様読み解きから設計・実装まで生成AIを組み込んだ開発プロセスで進めるため、レガシー化したアプリのリニューアルを短い期間で作り直します。
サービス詳細・お問い合わせはこちら


AI白書2026 配布中

クラスメソッドが独自に行なったAI診断調査をもとに、企業のAI活用の現在地を調査レポートとしてまとめました。企業規模別の活用度傾向に加え、規模を超えてAI活用を進める企業に共通する取り組みまで、自社の現在地を捉えるためのヒントにぜひ。

AI白書2026

無料でダウンロードする

この記事をシェアする

DevelopersIO 2026

関連記事