書評「製造業DX Next Stage」日本の製造業DXを世界の文脈で捉え直す一冊

書評「製造業DX Next Stage」日本の製造業DXを世界の文脈で捉え直す一冊

福本勲氏の「製造業DX Next Stage」の書評です。欧州のデータスペース構想からAIエージェントまで、各国・各地域の製造業DX動向を俯瞰的に把握できる一冊を、自分なりの感想を交えて紹介します。
2026.04.06

「こういう俯瞰的な情報って、やっぱり紙の書籍として読んだほうがいいよなぁ…」

製造業DXに携わっていると、日々の業務はどうしても目の前の顧客課題に目が向きがちです。市場動向を把握する際に、どうしても視野は国内市場に偏りがち。もちろん国内に目を向けること自体は重要なんですが、ふと「世界全体で見たときに、日本の製造業のDXってどこまで進んでいるんだろう?」と俯瞰的に見たくなる瞬間があります。

今回紹介する「製造業DX Next Stage」は、そこをまさに真正面から扱っている一冊でした。各国・各地域の動向からAIエージェントまで、製造業DXの「今」を俯瞰的に振り返ることができる本です。

以前、同著者の前著についても書評を書かせていただきました。

製造業界隈の最新トレンドをコンパクトに知ることができる書籍「製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」

前著ではEU/ドイツの動向が中心でしたが、今回はさらに対象を広げて世界各国の動向やAIエージェントといった最新テクノロジーまでカバーした内容になっています。本記事では、この書籍のエッセンスを自分なりの感想を交えて紹介していきます。

書籍紹介「製造業DX Next Stage」

https://www.kindaikagaku.co.jp/book_list/detail/9784764907713/

  • 書籍名: 製造業DX Next Stage -- 各国/地域の動向やAIエージェントがもたらす新たな変革
  • 著者: 福本 勲
  • 出版社: 近代科学社Digital
  • 出版日: 2025年12月5日
  • ページ数: 226ページ
  • ISBN: 978-4-7649-0771-3

【目次】
第1章 BtoC領域の変革が産業界にもたらしたもの
第2章 日本のDXの取り組みの現在地
第3章 各国・各地域の動向
第4章 最新テクノロジー活用の動向
第5章 日本企業はいかに取組むべきか

ハマコーなりの注目ポイント

この本の全体的な印象は、製造業のDXをAIエージェントのような技術的な要素を押さえながら、さらに各国・各地域でどういう取り組みが進んでいるのかをワールドワイドな観点で総合的に記している点です。

もちろん「製造業DX」で生成AIを利用しリサーチすれば様々な情報は出てきます。それはそれで十分役立ちますが、この本の価値は、著者の専門性に基づいた観点で全体が整理されていることにあjります。

事実を個別にまとめるだけではなくて、その事実に対してどういう解釈を与えるか。各情報がどう関連しているのか。そういう「つなぎ」の部分こそが、俯瞰して情報を把握することに向いている書籍としての体裁をとっていることの価値だと感じました。

第2章 日本のDXの取り組みの現在地

第1章はBtoC領域の変革が産業界にもたらしたものという導入から始まります。

第2章では、日本企業の製造業DXの取り組みがどういう状況にあるのかを、パブリックな情報をもとにまとめています。経済産業省の資料、IPAのDX動向調査ものづくり白書といった公的な情報源を紐解いて、日本の製造業の現在地を整理してくれています。

特に色濃く出ているのが、人材の過不足状況の深刻さ。そしてやはり、日本ではDXの取り組み成果が十分に出ていないという現実を、いろんなデータから引用して説明しています。

正直、政府公式情報はその網羅性と情報量の多さは素晴らしいのですが、その膨大さ故まとめて理解するのが結構大変だったりするんですが、それを包括的にまとめてくれているという点で、日本の製造業DXの全体像をサッと把握するのに役立つ章だと思います。

第3章 各国・各地域の動向

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個人的に、ここが一番面白かったところです。

この章では、ドイツを含む欧州、米国、中国、アジア各国といった主要な国・地域で、製造業のDXがどういうふうに進められているのかがまとめられています。全5章で226ページの本ですが、第3章だけで100ページ以上使っています。そういう意味で、著者がここに非常に労力を割いているのが伝わってきます。

欧州・ドイツの動向が特に充実

なかなかこういう各国の動向をまとめて見られる媒体って、自分もあまり思い浮かばないです。レポートとかを個別に紐解かないと難しかったりする情報が、一括してまとまっている。この章が特に面白かった点です。

特にドイツ周りの動向がすごく詳しく解説されています。ドイツはもともとインダストリー4.0発祥の地ということもあり、その流れから出てきたさまざまな仕組みやフレームワークが紹介されています。

前著の書評でも触れたCatena-XやGAIA-Xといったデータ連携基盤の話が、本書ではさらに発展して解説されています。前著を読んだ方であれば、その進展ぶりを実感できるはずです。

「○○X」の全体像が見えてくる

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かなり規格が多いデータスペース関連をこのようにまとめていただいているの本当にありがたい。この○○X系の仕組みって本当に数多くあるのですが、それぞれがどういう背景で出てきて、どのように絡み合っているのかって、断片的な情報だけだとなかなか理解しづらい。

この本では、Catena-X、Factory-X、Aerospace-Xといった業界別のデータスペースがどういう関係にあるのか、それぞれの位置づけが欧州全体の政策文脈と合わせて整理されています。加えて、OPC UAAAS(Asset Administration Shell)といった規格がどう関わっているかも説明されていて、全体像を掴むのに非常に助かりました。

前著の書評でも紹介したIDTA(Industrial Digital Twin Association)のデジタルツイン標準化の話も、本書でさらに深掘りされています。

代表的な政策・イニシアチブ

欧州では以下のような代表的な政策やイニシアチブも紹介されています。

普段、日本の製造業のお客様とお話ししている中で、こういう欧州の政策動向を意識することって正直あんまりないんですよね。ないからこそ貴重というか、自分が知らなかった面でのいろんな話をここで知ることができました。読んでいて本当に楽しかったです。

なお、ドイツ以外にも英国、米国、中国、アジア各国の動向もカバーされていて、世界全体での製造業DXの潮流を掴むことができます。

第4章 最新テクノロジー活用の動向

第4章では、製造業DXにまつわる最新テクノロジーの動向がまとめられています。

生成AI・AIエージェントの製造業への適用

サブタイトルにもある通り、生成AIとAIエージェントが製造業の中でどういうふうに活用されるかが中心テーマです。経営と現場をどうやってつなげるか、その中でAIエージェントがどういうオーケストレーションを担うのかが解説されています。

具体的なショーケースとして、Hannover Messe 2025で出展された各社の取り組みが紹介されています。

  • Siemens — AIを活用した製造プロセスの最適化
  • Schneider Electric — AI駆動のエネルギー管理
  • Beckhoff — 産業用AI制御
  • AWS — クラウドベースの製造業向けAIソリューション
  • ePlan — 設計エンジニアリングでのAI活用

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前著でもベッコフ社のPLCプログラミングへの生成AI活用が紹介されていましたが、今回はさらに各社の取り組みが拡充されていて、この1年での進展の速さを感じます。欧州の主要プレーヤーがどういうふうにAIを製造業に適用しているのか、外観をざっと把握できるのはありがたい。

デジタルツインとソフトウェアディファインド

AIの話題に加えて、デジタルツインやソフトウェアディファインドの概念についても触れられています。OT(Operational Technology)とIT(Information Technology)をどういうふうに連携させるのかという根本的な課題に対して、最新のアプローチが整理されています。

サイバーセキュリティ・デジタルトラスト

OTの中にもIT的な要素が広がっていくにあたって、セキュリティは今後ますます重要になってきます。特にEUサイバーレジリエンス法(CRA)は、EU域内で販売されるデジタル製品にセキュリティ要件を課すもので、日本の製造業にとっても無視できない重要なキーポイントになってくるでしょう。

第5章 日本企業はいかに取組むべきか

最終章は、これまでの海外事情や技術動向を踏まえて、日本企業に対する提言がまとめられています。

フロントローディングが進まない理由や、設計情報がうまく現場に伝わらない問題、データフォーマットが乱立している現状といった課題を率直に認めた上で、どういうふうに前に進めていくべきかが、著者なりの課題感として語られています。

世界の潮流を俯瞰した上で「じゃあ日本は?」と立ち返るこの構成は、前著の第4章と同じ流れですが、対象が世界全体に広がった分、より説得力が増していると感じました。

まとめ

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改めてこの本を読んだ感想として、書籍としての体裁をとっていることによる「全体を俯瞰して把握できる感じ」がすごく良いなと思いました。

AIを使えば個別のテーマで情報収集はできます。でも、いろんなパブリックな情報を集めた上で、それをどうやって関連づけて解釈するか。世界の動向が日本の製造業DXにどう活きてくるのか。その中でどういう技術がキーポイントになるのか。そういった「専門家としての解釈と全体の構造化」こそが、この本の一番の価値だと思います。

226ページとそこまで分厚い本でもないですし、製造業DXの「今」を俯瞰的に捉えたい方には非常に有用な一冊なので、ぜひ手に取ってみてください。

それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。

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