
【セッションレポート】球面調和関数の新展開: 回転・積分・勾配計算の最新技術 #CEDEC2026
はじめに
CEDEC2026 で聴講したセッションのレポートです。CG のレンダリングで重要な数学的な道具である球面調和関数について、基礎から最新の研究成果までが、埼玉大学の岩崎 慶 氏から体系的に解説されました。
セッションの概要は次の通りです。
- タイトル: 球面調和関数の新展開: 回転・積分・勾配計算の最新技術
- 登壇者: 岩崎 慶 氏 (埼玉大学 工学部情報工学科 教授)
- 日時: 2026 年 7 月 24 日 18:00 から 19:00
- 会場: 第 10 会場

球面調和関数とレンダリングでの役割
球面調和関数 (Spherical Harmonics、SH) は、球面上の関数を表すための基底関数です。方向ごとに値が変わる関数を、いくつかの係数の組で近似できるため、あらゆる方向から入ってくる光の分布などをコンパクトに扱えます。
レンダリングでは、空間の各点に届く光を表す Light Probe や、多角形光源や球光源のシェーディングなど、方向に依存する量を扱う場面で広く使われています。近年注目される NeRF や Gaussian Splatting のように、見る方向によって色が変わる表現でも用いられます。本セッションでは、この球面調和関数をめぐる回転、積分、勾配計算の最新技術が、SIGGRAPH などの研究論文とともに紹介されました。

回転を容易にする帯球調和関数
球面調和関数をそのまま回転させるのは、一般に手間のかかる計算です。そこで鍵になるのが、帯球調和関数 (Zonal Harmonics、ZH) です。これは球面調和関数の一部で、ある軸のまわりで対称な形をしているため、回転は軸を回すだけで済みます。
球面調和関数と帯球調和関数は互いに変換できる関係にあります。この性質を使い、あらかじめ決めた複数の軸方向の帯球調和関数を経由することで、球面調和関数の回転を効率的に計算できます。前計算した行列を用いる手法として紹介されました。

光源シェーディングの積分と勾配による高速化
多角形光源や球光源で陰影を計算するには、光源が見えている範囲にわたって反射特性を積分する必要があります。従来は数値的に求めていたこうした積分を、解析的に計算する手法が紹介されました。多角形光源では Axial Moment と呼ばれる考え方で領域積分を求め、球光源では投影領域の積分を球面調和関数の値で表せることが示されました。
さらに、光源が大量にある場合、各点で係数を計算するのは高コストです。そこで、空間に粗い格子を置き、格子点で求めた係数とその空間的な勾配を使って、あいだの点を補間することで高速化します。この勾配計算を扱いやすくするために、球面調和関数に半径の要素を組み込んだ体球調和関数 (Solid Spherical Harmonics) が使われます。座標の多項式として表せるため、勾配や誤差評価に使う二階微分まで見通しよく計算できます。こうした計算を自動生成するコード生成器も、GitHub で公開されているとのことです。

感想
数式が中心の理論セッションでしたが、球面調和関数という一つの道具が、光の表現から光源のシェーディング、高速化までを一貫して支えていることが伝わってきました。リアルタイムレンダリングの土台となる数学の最新動向を押さえておくことは、今後の技術選定の見通しを立てるうえで役立つと感じました。








