【書評】「中小企業のための人事評価の教科書 制度構築から運用まで」システム開発をしている企業におすすめの評価制度本

2022.07.04

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こんにちわ。従業員体験( EX ) の向上がミッションのエンジニアリング統括室に所属しているてぃーびーです。
前職でも現職でも評価制度に関わっている元ウェブエンジニアで人事領域に携わる私にとってスッと読める評価制度本を読んだので書評にまとめます。

書籍情報

目次

  • 第1章 コロナ禍で顕在化した人事評価・マネジメントの課題
  • 第2章 人事評価制度の目的
  • 第3章 「目標設定→目標達成ツール」としての活用ポイント
  • 第4章 「評価→育成ツール」としての活用ポイント
  • 第5章 これからの人事

各章の概要

第1章 コロナ禍で顕在化した人事評価・マネジメントの課題

成果はプロセスによって生まれる

コロナ禍で、部下のマネジメントや評価が難しくなった、という声がありがちです。では、部下の成果の質は何で決まるかというとプロセスです。仕事では何かを考え、行動をした結果としてアウトプットが生み出されます。このアウトプットから生み出される価値が成果です。
この思考、行動によるプロセスの質が高ければ大きなアウトカムを生み、低ければ小さな成果になります。
リモートで成果のみを見ていた場合、プロセスがわからないため大雑把な推測ベースのフィードバックしかできません。場合によっては、プロセスの推測すらせず「もっと成果を出せ」とだけフィードバックして、プロセスは全く確認せずに本人に任せきり、次の評価時期になってまた成果だけをみて叱る、そんな運用になっていることもありえるでしょう。プロセスを無視してプロセスを改善することは難しく、結果としてプロセスは改善されず、成果も変わらないままになります。
オフィスで仕事をしていたときは、意図的にプロセスを確認する仕組みをいれていなくても「たまたま視界に入る」「たまたま耳に入る」という偶然に助けられていたのではないでしょうか。仮にオフィスで仕事をしていたとしても、本来はプロセスを確認する仕組みを作り込んでいたほうが安定してプロセス改善を行えたはずで、リモートのせいではないことになります。

マネジメントの本質

マネジメントの本質は問題解決です。
理想と現実のギャップを把握し、そのギャップを埋める施策を実施し、理想に至るまで改善を繰り返すことです。
また、単に改善するだけではなく、所与のリソースを加味して改善をします。

マネジメントを属人化せず組織的に整える

マネジメントをマネージャー個人の努力だけに委ねず、組織的に整える必要があります。
自社のコンテキストを踏まえたマネジメントの仕組みを整えることで、マネージャーが安定してマネジメント成果を発揮できるようにしていくのです。書籍のテーマである「人事評価制度」もその仕組みの一つです。

第2章 人事評価制度の目的

人事評価制度の目的は、社員の成長を促し、業績向上につなげていくことです。
  • 社員に求めるものを明確にする
  • 社員が求められていることをできるようになる
  • 結果として業績が向上する
という流れになるわけですが、なんだかシステム開発のテスト駆動開発のようです。
  • Expected を明確にする
  • Expected を元にテストを作る
  • Expected = Actual となる実装をする
  • 結果としてテストが通り、期待される動作をする
評価基準の整備は Expected の明確化。
基準に至るように成長を支援することは Expected に至る実装。
評価実施は Actual が Expected に至ったかどうかの確認。
そんなふうに見えます。
以上のように評価は成長支援と一体です。
そして、 Expected に至る成長支援が重要なのであり、そこに到達したことによる査定自体は結果の確認であり、評価活動の主役ではありません。
また、成長支援が重要であるということは、本人が何をやっていきたいかに関わる「内発的な動機」とのつながりも欠かせません。この点を加味することができれば、会社都合による本人の成長だけではなく、本人がやっていきたいことを踏まえた本人の成長を兼ねることになり、結果としてこの重なりが大きいほうが成長意欲につながりやすくなっていきます。

第3章 「目標設定→目標達成ツール」としての活用ポイント

まず、企業活動における目標には組織目標個人目標があります。
組織目標は全社、部門、チームなどにおける目標であり、各単位における理想と現実のギャップを埋めるためのものです。
個人目標は、所属範囲の組織の目標と連動し、自分が受け持っている役割・責務において存在する理想と現実のギャップを埋めるためのものです。それは、事業軸としてより高い成果を生み出すために必要なものもあれば、個人軸としてより高い成果を出すために自分が身につける必要のある知識、スキルの場合もあるでしょう。
そして、その取組は1発で成功するとは限らず、期中を通してモニタリングしていく必要があります。そして、理想に至るまで改善を繰り返していきます。

第4章 「評価→育成ツール」としての活用ポイント

書籍では育成となっていますが、この記事ではあえて成長支援と表現しています。
育成は自発的な成長を含まないニュアンスに聞こえるからです。マネージャーや会社からの支援で成長をすることもあれば、社員自身が業務を通して自ら成長することもあります。その全体が対象となるため成長支援としています。
成長支援の成功はなにかというと
  • 果たすべき役割、責務の遂行に必要となる知識、スキルを身に着けること
  • 身につけた知識、スキルを用いて果たすべき役割、責務を果たせること
になります。それは、できなかったことができるようになり、それがより大きい事業成果につながることです。
この成長の階段を作るために、果たすべき役割、責務の階段を整備し、そこに必要となる行動や能力の階段を整備します。
これが評価制度で一般的に作られる職能要件評価グレード制と呼ばれるものです。
これらを元に、マネージャーとメンバーで現在および次のグレードの理想と現実のギャップを話し合い、次に伸ばす部分を決定し、 OffJT・OJT の双方を通して実際の能力を伸ばしていくことになります。
この活動はいわゆるふりかえりです。
プロジェクトなどチームで行われるふりかえりは業務のプロセスを継続的に改善することで、チームの成果を高める活動です。
評価運用は個人の行動、能力に対して行われるふりかえりで、個人の業務上のプロセスを継続的に改善することで、個人の成果を高める活動です。
評価に関わらない個人のふりかえりについては、以下を参考にしてください。

第5章 これからの人事

ここは書籍を読む方のお楽しみ、ということで省略します。

まとめ・感想

全体として元ウェブエンジニアである私が普段考えていることに近く、物事の定義を大切にしていること、問題解決の考え方など、ソフトウェアエンジニアと近い考え方の書籍だと感じ、読みやすい内容でした。
ソフトウェア・エンジニアリングを事業の中心に据えている企業が評価制度を検討する際に参考にしやすい書籍だと思います。今回概要として紹介した部分以外に、より具体的な評価制度設計や運用に関する情報が書かれているので、ぜひ読んでみてください。