
【Center Stage】ポンプとパイプにAIを。150年企業Wiloが語った「Water AI」戦略 #HM26
概要
こんにちは、クラスメソッド製造ビジネステクノロジー部の田中聖也です。
HANNOVER MESSE 2026のDay4、Center StageでWilo SEの講演を聴講してきました!
「AIというとクルマとかコンピューターを想像するでしょう。でも、ポンプやパイプのことを思い浮かべる人はほとんどいない」
冒頭のこの問いかけに 「確かに」 と思いました。インフラの中でも電力とAIという話は聞きますが、水とAIという話はあまり聞かないですし、イメージも少ないです。講演を聞くとインフラにおける水とAIの掛け合わせの重要性が分かりました。
この記事では以下のことに触れていきます。
- Wilo SEとはどういう会社か
- 「Water AI」戦略の全体像と3本柱
- 「Embed AI」:製品へのAI組み込み事例
- 「Enable AI」:AIインフラを支える水技術
- 「Embrace AI」:社内AI活用の時系列ロードマップと具体事例
- 講演を聴いて感じたこと
Wilo SEとは
Wilo SEは1872年にドイツ・ドルトムントで創業した、150年以上の歴史を持つ水技術の専門メーカーです。ポンプや流体制御システムを中心に、ビルの給排水・冷暖房向けから下水処理・産業プロセスまで幅広い製品を提供しています。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 創業 | 1872年(ドイツ・ドルトムント) |
| 売上高 | 約19.2億ユーロ(2025年度) |
| 従業員数 | 約9,000人 |
| 拠点 | 世界50カ国以上、90以上の生産・販売拠点 |
| 資本構造 | Caspar Ludwig Opländer財団が約90%保有の同族経営 |
財団が株式の約90%を保有するオーナー企業であるため、四半期ごとの利益目標に追われることなく、数十年単位の長期投資が可能な体制になっているのが特徴的ですね。
ドルトムントの本社「Wilopark」には、複数の賞を受賞したスマートファクトリーや、2026年4月にオープンしたHealth Cubeと呼ばれる健康管理センター(5,500㎡)も備えているとのこと。講演スライドに写真が出てきて、結構な規模でした。

「Water AI」戦略の全体像
Wilo SEが掲げる戦略のキーワードが「Pioneering WATER AI for You」です。水とAIを独立した話として扱うのではなく、完全に統合した視点で事業全体に展開していくというものです。
講演でGraurock氏が強調していたのは、「Water AIはプロダクトでも技術の名前でもない」ということ。あくまでAIと水技術をどう結びつけていくかの全体的なフレームワークだと説明していました。
この戦略は3本柱で構成されています。

| 柱 | 概要 |
|---|---|
| 01. We embed AI | 製品・ソリューションにAI機能を直接組み込む |
| 02. We enable AI | AIのバリューチェーン全体を支える水インフラを提供する |
| 03. We embrace AI | 社内オペレーション全体でAIを日常業務に統合する |
01. Embed AI:製品へのAI組み込み
「Embed AI」は、ポンプや制御システム自体にAIを組み込んで、機器が自己最適化するようにしていくアプローチです。
エネルギー効率の最高基準であるIE5規格(国際的に定められたモーター効率の等級。IE1〜IE5があり、5が最上位)モーターを搭載したスマートポンプをラインナップしており、システム全体の負荷に応じてリアルタイムでポンプの回転数を自動調整する技術を展開しています。
AIを組み込むことで、固定速度で動き続けていた従来のポンプに比べて省エネを大幅に実現できるというのが、製品戦略の軸になっています。
02. Enable AI:AIインフラを支える水技術
「Enable AI」がWiloの戦略の中でもっともユニークな視点だと感じました。
生成AIの爆発的な普及によって、ハイパースケールのデータセンターや半導体工場が膨大な熱を発生させており、その冷却に天文学的な量の水が必要になっています。WiloはこのAIバリューチェーン(AI技術が機能するための物理的な基盤全体)を支える冷却・水インフラの提供者として自社を位置づけています。
「AIが動くためには水が要る。その水を届けるのがWiloだ」という構図ですね。製造業や水処理の文脈でAIと自社ビジネスを結びつけるロジックとして、これは確かに説得力がありました。
03. Embrace AI:社内AI活用のロードマップ
個人的にもっとも興味深かったのが「Embrace AI」のパートです。社内でのAI活用を時系列のロードマップで具体的に説明していました。

スライドに記されていた主な取り組みを整理すると↓
| 時期 | 取り組み |
|---|---|
| 2023年 | WiloGPT(社内向けチャットボット)の構築 |
| 2024年 | RAGパイプライン(社内データの検索拡張生成)・SQLエージェントの実装、M365 Copilotの展開検討、8Dレポート自動化 |
| 2025年 | 1,000ユーザーのオンボーディング完了、マルチエージェント・MCPの実装 |
| 2026年 | コーディングエージェントの導入 |
| 今後 | パーソナル生産性 → ドメイン特化アシスタント → エージェンティックオートメーションへ |
印象的だったのが、Microsoft 365 Copilotの全社展開を検討した際のアプローチです。「20〜30ライセンスを購入して数週間試して評価する」という通常の進め方をあえて選ばなかったと話していました。評価完了時には技術がすでに陳腐化しているという判断から、「最初から全社展開の前提で動く」というアプローチに切り替えたとのこと。指数関数的なAIの進化スピードを念頭に置いた判断ですね。
8Dレポート自動化の事例
具体的な成果として紹介されていたのが、8Dレポート(品質問題の原因分析・対策を8つのディシプリン〈分野〉に沿って記録する書類。製造業で品質管理の標準ツールとして使われている)の自動化です。
サプライヤー品質管理で使われるこのレポートは、従来45〜60分かかっていたプロセスをAIアシスタントの導入によって5〜10分に短縮したと話していました。
「非常に具体的なユースケースだったから、明確で測定可能なインパクトが出た」というコメントが印象的でした。漠然とした生産性向上ではなく、特定業務への集中投資で成果を出した事例です。
SQLエージェントによる調達データの照会
RAGパイプラインと並行して、SQLエージェント(自然言語で質問するとSQLに変換してデータベースを検索し、結果をそのまま返してくれる仕組み)も実装しています。
調達チームが先行ユーザーになったとのことで、「サプライヤーXYZとの過去3年の取引額は?」といった質問をそのまま投げかけると、SAP(独SAP社が提供するERPシステム。製造業で広く使われている基幹業務システム)のテーブルから直接データを引き出してインサイトを返してくれる環境を構築しています。
エージェンティックAIへの言及
2025年のMCP(Model Context Protocol。AIモデルが外部のデータソースやツールと標準的な方法で連携するための規約)と、2026年のコーディングエージェント導入についても触れており、「特定の狭いアプリケーションから水平にスケールする段階に入っている」と話していました。
ただ、同時にエンタープライズ環境での現実も率直に認めていました。「LinkedInを見ていると『何でも簡単にできる』という雰囲気があるが、実際には企業導入・ガバナンス・セキュリティ・変革管理といったプロセスは人間が主導するしかなく、直線的な性質を持っている。技術の進化スピードとのギャップを広げすぎないことが課題だ」というコメントは、正直なところかなり共感できる内容でした。
講演を聴いて感じたこと
講演の最初は「あまり自分と関係のない話」 + 実際のユースケースではなく、アブストラクト的な話かと思っていました。
ただ、話を聞いていくと、「Embed / Enable / Embrace」の3層が製品・インフラ・社内オペレーションとそれぞれ別のレイヤーに対応していて、戦略として整理されているのがわかりました。
特に「Enable AI」の視点、つまり「AIが動くには大量の水が要る。そのインフラを提供するのが自社の役割だ」というポジショニングは、製造業のメーカーがAI時代に自社のビジネスをどう再定義するかという点で参考になる事例だと感じました。
社内AI活用のロードマップも、製造業のリアルな現場感を踏まえたステップになっていて、2023年からの取り組みを時系列で示していたのは説得力がありました。特定のユースケースに絞ってROIを出してから横展開するという進め方は、同じ課題を持つ製造業のIT担当者・DX担当者にとって参考になる内容だったと思います!!
まとめ
Center Stageで聴いたWiloの「Water AI」戦略、ポンプメーカーとしての150年の文脈とAI時代の戦略をつなげた話として印象に残る講演でした!
「AIが動くためには水が要る」という視点と、社内での段階的なAI実装ロードマップ(2023年社内GPT→2025年1,000ユーザー→2026年エージェント)は、製造業×AIを考えるうえで具体的な参考事例になりますね。










