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ドイツ首相が宣言した"AI脱規制" - 世界最大の産業見本市 Hannover Messe 2026 に行ってきた [現地レポ]
ベルリンオフィスの小西です。
今週ここドイツでは 世界最大の産業見本市 Hannover Messe 2026 が開催中です。
クラスメソッド日本からも製造ビジネステクノロジー部が視察に来ており、それに合わせて我々ベルリンオフィスのメンバーも合流して現地を歩いてきました。
その中から今回は、Day1の基調講演に登壇したドイツ首相のスピーチを取り上げ、現地で感じたことをレポートします。
クラスメソッドにも製造業のお客様は多く、「ドイツの今」はEU市場を見るすべての方にとって気になる話題かなと思います。
Hannover Messe 2026 の概要
ハノーファーメッセは、ドイツ・ニーダーザクセン州ハノーファーで毎年開催される、世界最大規模の産業見本市です。
今年で第79回を迎え、機械工学、電気・デジタル産業、エネルギー、AI、ロボティクスなど、製造業を取り巻くあらゆる最新動向が一堂に会します。
今年の開催概要:
- 会期:2026年4月20日〜24日
- 今年のテーマ:「Think Tech Forward」 (テクノロジーで前へ進もう ※意訳)
- 規模感:4,000社の出展、14,000以上の新製品・ソリューションが発表
- パートナー国:ブラジル
- 主要トピック:産業AI、ロボティクス、自動化、防衛分野(今年から新設)

とにかく広い・でかい・多い!
人型ロボットがそこら中を歩いていたり、ロボアームが金属をその場で加工していたり、展示物の豪華さがテックイベントとは桁が違います。
搬入費用だけでいくらかかっているのか...
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相について
Day0セレモニー含め連日の首相登壇で現地では盛り上がっていたんですが、日本ではまだ知名度が高くない印象なので軽く紹介。
- 2025年5月に第10代ドイツ首相に就任(まだ就任1年未満)
- 1955年生まれ、CDU(キリスト教民主同盟)党首
- 弁護士・企業法務出身で、CDU内でも特に親ビジネス・市場志向の代表格
メルケル時代に一度政界を離れていた経歴や、内閣発足後すぐデジタル国家近代化省を新設したりと、ドイツの政治家の中でも「ビジネス側の論理」を打ち出すタイプです。
製造業・IT・AIに対するスタンス
メルツ首相は、ドイツが産業立国であり続けることを一貫して強調しています。
特にAIや産業のデジタル化については「ドイツがこのままでは中国・米国に置いていかれる」という危機感があり(と言うかむしろ追いつく立場)、規制緩和と投資加速を主張しています。
最近の景気低迷と支持率
メルツ首相やドイツを巡る状況は決して楽ではなく、景気の停滞、選挙公約に関する有権者からの不満、そしてイラン情勢に端を発するエネルギー危機対応など、逆風が続いています。4月時点のZDF Politbarometer(ドイツの代表的な世論調査)では、首相への評価は65%がネガティブな回答でした。
そんな中で迎えたハノーファーメッセは、メルツ首相にとってドイツ産業界に向けて「自信」と「方向性」を示す絶好の機会でもありました。
ここからDay1(4/20)の基調講演「Made for Germany」に現地参加して聞いた話を整理していきます。
メッセでメルツ首相が語った内容
会場は入場待ちができるほどの満員。私は前セッションから席を取っていたおかげで割と近くで拝見できました。

ドイツが進む道:AI規制をめぐる明確な姿勢
今回もっとも印象的だったのは、AI規制についてのメルツ首相の踏み込んだ発言です。
メルツ首相は EU AI Act について「現状の枠組みは狭すぎる」と明言し、産業用AI(industrial AI)を EU AI規制の対象から外すことを目指すと表明しました。
「中国・米国に追いつくにはAIが生命線。だから規制で潰してる場合じゃねえ」というメッセージと受け取りました。
(普段、"Rules is Everything!" な場面に出くわしがちな国に暮らしていると、こういった発言は新鮮に見える)
EU AI Act とは
EU AI Act(EU AI法)は、世界で初めての包括的なAI規制法として2024年8月に発効済み、2026年8月から本格適用が始まる予定の法律です。
EU域外の企業であっても、EU市場でAIシステムを提供する場合には適用されます。(GDPR と似た「域外適用」の考え方ですね)
特徴は リスクベースアプローチ で、AIシステムを4つのリスクレベルに分類して義務を課します。
- 許容できないリスク:政府による社会的スコアリング、公共空間での無差別な顔認識など。原則禁止
- 高リスク:重要インフラ、採用・評価、与信審査、医療機器など。厳格な適合性評価と継続的なモニタリングが必要
- 限定的リスク:チャットボットなど。透明性義務(AIと対話していることを明示するなど)
- 最小リスク:それ以外。基本的に規制対象外
問題は、産業AI(品質検査、予知保全、生産ラインの最適化など) の多くが「高リスク」に入りやすく、認証や文書化、運用記録の負担が重くのしかかる点です。
正直、変化目まぐるしいAI時代に多国間同盟の枠組みを完全に適用させようというのは無理があります。生成AIが主流になる前に設計された制度ですし、ZVEI(電気・デジタル産業連合会)などの業界団体からも改善要望があるようです。
今回のメルツ首相の発言は、その要望に応える内容になっています。
EU/ドイツ/国内州という3層構造で進む議論
ドイツでテクノロジー政策を語るとき、構造としては EU > ドイツ が前提になります。
AI規制も個人情報保護も、まずEUレベルでルールが作られ、それを各加盟国が国内法に落としていく、という流れです。
メルツ首相(というかドイツ)は「ドイツがEUという機関車の原動力であるべき」という自認があり(実際の経済的にもそういった立場なんですが)、スピーチでは「"EU内での協力に注力しすぎ"との批判もありますが、今は逆に褒め言葉として受け取ってますよ :)」といった主旨の発言もありました。
一方で、ドイツは歴史的に、州(Land)レベルの権限がとても強い国でもあります。例えば個人情報保護の監督機関は、連邦レベルだけでなく16ある州それぞれにも独立して存在するのが特徴で、企業からすると「事業を展開する州ごとに当局とのやり取りが必要」というケースも珍しくありません。
つまりEU・ドイツ連邦・州という3つのレイヤーの方向性をすり合わせる必要があり、メルツ首相が「規制を緩和したい」と言っても、そう簡単に話が進まない事情があります。今回の発言は、「政治のトップとして実際に国を動かす」という意思表明に読み取れました。
データ主権 = 産業AIの土台
産業AIをめぐる議論で外せないのが データ主権(Data Sovereignty) の話です。
メルツ首相は基調講演で、「ドイツとEUは、AIチェーン全体への主権的なアクセスを必要とする」と強調しました。ここでいう「全体」とは、ハードウェア、ソフトウェア、チップ、クラウド、モデル、データのすべてを含みます。
すでに具体的な動きは進んでいるようです。例えばドイツテレコムは Europe初の主権的な産業AIクラウドを発表 しています。米国のハイパースケーラーに依存しない形で、欧州内のデータが欧州内に閉じる仕組みを作っていこう、という流れです。
ただ基調講演やブースではMicrosoftをはじめとした米国企業の存在感も依然として大きかったので、現実はそう簡単じゃないジレンマもありますね。
クラスメソッドのお客様からも、欧州市場展開の中で「データの置き場 = 欧州内に留めるべきかどうか」というご相談は増えてきています。
現場の展示やセッション

各ブースや展示の詳しいレポートは、すでに弊社メンバーから何本も上がっています。あわせて読んでいただけるとメッセ全体の雰囲気がより伝わるかと思います。
メルツ首相はスピーチの後にも会場の視察ツアーを行っていたようで(残念ながらそちらは見られず)、印象に残った展示として Agile Robots に言及していました。
Agile Robots はミュンヘンに本社を置くロボティクス企業で、ドイツ航空宇宙センター(DLR)からのスピンオフとして設立されました。ドイツ初の「ロボティクス・ユニコーン」 とも呼ばれる注目株です。
会場では、ヒューマノイドロボット "Agile ONE" がロボットアームでの組み立てを実演していました(後日別レポート予定)。普通に手つきが滑らかすぎて、しばらくその場で見入ってしまいました。
メッセを歩いていると、首相のスピーチで語られていた「産業AI」「ロボティクス」が各ブースで具体形になっていて、この分野を牽引していきたいという意思を、政治と民間の両方から感じ取ることができました。
最後に
メルツ首相の今回のメッセでのメッセージは、「Deutschland kann Industrie(産業ならドイツ! ※意訳)」という一言で締めくくられます。
web畑の自分にはあまり縁がない世界かなと思っていたんですが、実際来てみるとめちゃくちゃ刺激がありました。
来年2027年で80周年を迎えるハノーファーメッセ。世界最大の産業見本市がどんな形で節目を迎えるか、また現地でレポートできればと思っています。
こちらの空気感が少しでも伝われば嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。











