
8,000億ユーロ投資、産業AIのEU規制緩和、EU-Mercosur発効 — ハノーバーメッセ2026 オープニングセレモニー現地レポート #HM26
「今まで自分が参加したイベントとは次元の違う、欧州製造業の国家戦略レベルのテーマやでこれ…」
2026年4月19日(日)、ハノーバーメッセ2026のオープニングセレモニーに参加しながら、自分は率直にそう感じてました。
会場はHannover Congress Centrum(HCC)。メッセ会場から8-10kmほど離れた別会場で、世界各国の報道陣・出展者・政財界のトップが集うハノーバーメッセ最大の公式イベントです。登壇者が全てVIP。後述しますが、プレス用入口での荷物チェックも非常に厳重でした。
- Friedrich Merz 氏 — ドイツ連邦共和国首相
- Luiz Inácio Lula da Silva 氏 — ブラジル連邦共和国大統領
- Dorothee Bär 氏 — ドイツ連邦研究・技術・宇宙大臣
- Julie Sweet 氏 — Accenture 会長兼CEO
- Dr. Gunther Kegel 氏 — ドイツ電気・デジタル産業連盟(ZVEI)会長
- Belit Onay 氏 — ハノーバー市長(開催都市ホスト)
全体的な感想を先に書いてしまうと、この開会式は所謂一つのセレモニー的な要素を含みつつ、欧州の製造業が「産業AI時代の勝者になるための国家戦略」を、政府・業界団体・グローバルプレーヤーの三位一体で世界に向けて宣言した場と位置づけられます。
本記事では、このセレモニーの内容をできる限り詳細にお伝えするための記事です。少し長めの記事になりますが、各セクションごとに区切って読んでいただければ幸いです。日本の製造業の皆さんに、すこしでもお役に立てる記事となれば幸いです。
会場となるHannover Congress Centrum(HCC)
オープニングセレモニーの場所は、ハノーファーメッセのメイン会場とは異なる場所にあります。Hannover Central Stationから電車で10分、徒歩30分ぐらいの場所にあり、周囲は講演など緑が豊富。

正面入口はかなり歴史を感じます。

今回我々はプレス枠ということもあり、別のプレス用入口から中に入ることになりました(入口かなり迷いました…)。
プレス枠での会場への入場の流れ
自分はハノーバーメッセ自体の参加は2回目なのですが、このオープニングセレモニーへの参加は始めて。申込みさえすれば誰でも参加できるわけではなく、出展関係者や招待者などに限られているようです。
今年は、クラスメソッドからは自分と田中聖也がプレス枠での参加となっており、その一環でオープニングセレモニーの参加が認められたという流れです。

このオープニングセレモニーは非常に多くのVIPが登壇するということもあり、セキュリティチェックがめちゃくちゃ厳重でした。鞄の中身と衣服は全て細かくチェックされ、その後グループに分かれて警察犬による爆発物チェックを待ちます。
それが終わってようやく、受付にIDを提示し取得できたのがこのOpening Ceremony プレス用パス。これをゲットするだけで30分以上かかってます。慣れない海外での受付ということもあり、かなり緊張しました。なんとか入れてよかった…

プレス用フォトスポット。

ラウンジがあったので他の招待者の方と少し歓談。

あとで気づいたのですが、この右側の方がなんとヴォルフガング・ヴァールスター(Wolfgang Wahlster)氏で、ドイツを代表する人工知能(AI)研究の権威であり、「インダストリー4.0」という言葉の生みの親の一人です。
AI and Industry 4.0: Prof. Dr. Dr. Wolfgang Wahlster - YouTube
5分程の短い時間でしたが、これまでのハノーファーメッセの歴史などを丁寧にお話いただきました。本当に感謝です。有りえない幸運でした。
プレスラウンジは、料理も飲み物も豊富で非常にリラックスできる空間になってました。


入場の様子をテレビで眺めながらしばらく過ごした後、会場に入ります。
当日発信された3つのシグナル
詳細に入る前に、このセレモニー全体が発した3つの重要なシグナルを先にお伝えします。
- 産業AIのEU規制緩和を、ドイツは国として前に進める — ZVEI会長Kegel氏とメルツ独首相が、共にEU AI Actから産業AIを切り出すべきと公式表明
- Made for Germany — 129社が2028年までに8,000億ユーロの投資を表明 — ドイツ史上過去最大級の民間投資コミットメント。メルツ首相がキーノートで明言
- EU-Mercosur自由貿易協定が、26年越しに暫定発効 — 約7億人の自由貿易圏がセレモニー翌週から始動するタイミング。パートナーカントリー=ブラジルはこの発効の象徴
以降、セレモニーの進行順に沿って各セクションを詳細にお届けします。
開会挨拶 — 地元から連邦政府への注文

セレモニーの冒頭、開会挨拶を務めた地元の代表者は、ブラジルを歓迎しつつ、連邦政府に対して明確な注文をつけました。
このメッセは、私たちの産業に、私たちの経済に勇気を与える場だ。
(中略)ブラジルをハノーバーメッセにお迎えできることを、私たちは心から光栄に思う。
一方で、現状認識は厳しく、単なる歓待ではありません。
米国トランプ大統領の政策により、世界の取引ルールと金融市場は揺さぶられている。ドイツの経済成長はEU内で遅れをとり、投資家は計画性を求めている。高いエネルギーコスト、高い労働コスト、不確実な投資環境——これらに明確に答える計画が必要だ。
そして、連邦政府への注文はこうでした。
私たちは、迅速な認可、官僚主義の縮減、そして何より計画の確実性を必要としている。遅延する投資は、成長・雇用・イノベーションにとって致命的な機会損失である。
再生可能エネルギーに関する、ブラジルへの敬意ある言及も印象的でした。
ブラジルは電力の 80% を再生可能エネルギーで賄い、2025年時点で産業部門のエネルギー需要の 64.4% を再生可能エネルギーから供給している。近代経済が高比率の再エネで成長できることを、ブラジルは示している。水素・風力・太陽光・バイオエネルギーへの投資は、安定性と将来性への投資である。
さらに、移民・労働力政策についても明確な立場を表明しました。
労働力不足は、移民なしには解決できない。統合と経済的成功は表裏一体だ。ここで働き、研究し、起業する人々が、この国を強くしている。
開幕直後から、連邦政府・EU・国際情勢に対する"要求"が前面に出る構成。ドイツ国内の危機感と、それを乗り越える意思が強く伝わる立ち上がりでした。
ZVEI会長 Kegel氏 — 「産業AIをAI Actから切り出せ」
続いて登壇したのが、ドイツ電気電子工業連盟(ZVEI: Zentralverband Elektrotechnik- und Elektronikindustrie)会長の Dr. Gunther Kegel氏です。
ZVEIは、ドイツの電気・電子・デジタル産業を代表する業界団体で、会員企業は約1,600社、従業員数約90万人を擁する、ドイツ製造業を代表する最重要団体のひとつ。日本でいう電機工業会(JEMA)や電子情報技術産業協会(JEITA)のような立ち位置です。
Kegel氏のスピーチは、まずドイツ製造業の実力を再確認するところから始まりました。
機械工学および電気・デジタル産業は、良い業績を上げている。私たちは引き続き、世界の「工場の装備士」として信頼されている。
その上で、ドイツ国内の課題を率直に並べます。
私たちは社会保障制度の抜本的改革が必要だ。電力コストを下げ、エネルギー転換を正確に継続する必要がある。欧州統合の完成も進めねばならない。大胆な決断で大きな前進を成し遂げよう。
そして、スピーチの核心は産業AIへの確信です。
私たちはまさに今、産業AIに向かって動いている。これがドイツにもたらすチャンスは、私の見る限り、歴史的だ。私たちは今もなお強い産業基盤を持っており、これが産業AIの発展において決定的な優位性となりうる。
Kegel氏が最も強調したのが、ドイツの産業データの質と主権でした。
私たちは想像もつかない規模の、産業ドメイン固有データを保有している。そしてそのデータを正確に交換・活用するためのセマンティック標準の開発においても、私たちは世界をリードしている。
ここで言及された「セマンティック標準」とは、Industry 4.0のフレームワークである Asset Administration Shell(AAS)や、Gaia-X・Catena-Xといった欧州独自のデータ共有基盤を指していると考えられます。米中のクラウドAIに対抗する、欧州独自のデータ主権型インフラの構築に、業界トップとして確信を持っているというメッセージです。
そして、政府への最大の要求がこれでした。
産業AIは、EU AI Actから切り出されるべきだ。 この産業分野への過度な規制が続く限り、私たちは競争力を失う。
Kegel氏はさらに、サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferketten Sorgfaltspflichtsgesetz)についても、「ドイツが欧州の基準を超えて独自に強化するのは理解しがたい」と直接的に異議を表明。業界団体トップが、連邦首相・ブラジル大統領が同席する公式の場で、ここまで具体的な規制緩和要求を明言するのは、ドイツ産業界の切迫感の強さを示しています。
Hermes Award — AIが組み込まれた製品が当たり前に

セレモニーの華のひとつが、Hermes Award(産業技術革新賞) の授賞式です。
Hermes Awardは、ハノーバーメッセが2004年から毎年授与している、産業界における最も権威ある技術革新賞のひとつ。審査は独立した国際ジュリーが行い、対象はハノーバーメッセ出展企業の中でも特に先進的なイノベーションに限られます。
審査委員長を務めたフラウンホーファー協会(Fraunhofer-Gesellschaft)会長 Prof. Dr. Holger Hanselka氏によると、今年のノミネート作品に共通していたのは「AIが直接・間接を問わず必ず関与している」という点だったとのこと。
ツールとしてAIを使うのは、もはや当たり前になった。今年特に目立ったのは、 AIを製品そのものに組み込み、"学習する製品・知能を持つ製品" として作り上げている案件が増えたことだ。これは素晴らしい傾向だ。
また、Hanselka氏は産業界からの明確な要求として「主権」という言葉を繰り返し使いました。
私たち産業界に必要なのは、 何か主権的なもの(etwas Souveränes) だ。世界のどこかで生まれたものにただアクセスするのではなく、私たち自身のデータの質、そしてデータ主権を強く意識する必要がある。これは本当に大きなテーマだ。
ノミネート3社 — すべてドイツ企業
第23回となる今年のHermes Awardのノミネートは、以下の3社でした。
- Festo(独) — 多層プラスチック製の高集積マニフォールド。流体の制御・分配・混合・センシング(温度・圧力・流量・色・pH)をコンパクトに統合。医療・ライフサイエンス機器向け
- Schaeffler(独) — ヒューマノイドロボット関節用の高集積アクチュエータープラットフォーム。サーボモーター+パワーエレクトロニクス+エンコーダーを一体化し、2段遊星ギアまたはシャフトマウントギアで構成可能
- Ziehl-Abegg(独) — レアアース不要のエレベーター用同期モーター。ネオジム・ジスプロシウムを一切使わず、フェライトマグネットで従来プレミアム同等の性能(トルク密度・静粛性・エネルギー効率)を実現
特筆すべきは、3社すべてがドイツ企業であること。Kegel氏がスピーチで強調した「産業ドメイン固有データと主権」、メルツ首相が語る「ドイツ産業基盤の強さ」を象徴する構図になっています。特にZiehl-Abeggの「レアアース不使用モーター」は、原材料の米中依存からの脱却という欧州の技術主権戦略そのものです。
大賞: Schaeffler — ヒューマノイドロボット関節用アクチュエーター
大賞(Hermes Award 2026)を受賞したのは、ドイツの大手ベアリング・自動車部品メーカー Schaeffler社。受賞対象は前述のヒューマノイドロボット関節用高集積アクチュエータープラットフォームでした。
- 市場の最新ソリューション比で、設置スペースを約20%削減
- 連続トルクと放熱性能を向上
- サーボモーター・パワーエレクトロニクス・エンコーダーを一体化した "All-in-One" 設計
- サービスロボット・ヒューマノイドロボットの量産スケーリングを可能にする基盤技術
Julie Sweet氏のスピーチで語られた「Reinvention」、Kegel氏の「学習する製品・知能を持つ製品」、そしてドイツ自動車部品大手のSchaefflerがヒューマノイドロボットに事業の重心を拡張していく、というメッセージ。このセレモニー全体のテーマと完璧に符合する受賞でした。
授賞式では、連邦研究・技術・宇宙大臣 Dorothee Bär氏が登壇。政府として重視する6つのキーテクノロジー(AI、量子技術、バイオ、マイクロエレクトロニクス、気候中立エネルギー、気候中立モビリティ)への投資方針と、「1000 Bright Minds」プログラム(300人の優秀な研究者を45カ国から招聘した実績)への言及もありました。
Hermes Startup Award: BTRY — スイス発の次世代バッテリー
Hermes Startup Award(設立5年以内の企業向け)を受賞したのは、スイスの BTRY社(ETHチューリッヒ発のスピンアウト)でした。
- 半導体プロセスをベースにした革新的なバッテリー技術
- 安全性と充電速度で新基準を設定
- 従来型バッテリー工場と比較して資源効率性が高い(環境規制の強化に対応)
Hanselka氏のコメントが印象的です。
スタートアップは、ミッテルシュタント(中小企業)の代替ではなく、補完だ。これは重要な認識だ。
ドイツ産業の屋台骨であるミッテルシュタントと、スタートアップの関係性についての洞察がここにあります。
[濱田補足: Hermes Award授賞式を現地で見た感想、受賞企業の雰囲気など]
Accenture CEO Julie Sweet氏 — Reinvention宣言

個人的に最も力強さを感じたのが、Accenture CEOのJulie Sweet氏 による産業キーノートスピーチでした。
Julie Sweet氏は、世界最大の経営コンサルティング・テクノロジーファームAccenture(従業員約80万人、売上約640億ドル)のCEO。世界で最も影響力のある女性の一人として知られています。ドイツ首相・ブラジル大統領が同席するステージで、民間企業のトップがキーノートを務めること自体が、このセレモニーの特異性を示しています。
Sweet氏は冒頭、会場全体に問いを投げかけました。
自分自身に問いかけてほしい。あなたのビジネスや政府で、12か月前とは**完全に違う(completely different)**ものは何か? 今日、どの部分が完全に変わったと言えるのか? 私はこの問いを、自分自身と、リーダーシップチームに問い続けている。
そしてSweet氏が提示したのが、AI時代を勝ち抜くための2つの必須条件です。
AIは産業生産の新しい基盤であり、すべての産業を再定義する。これは議論の余地がない。そしてAccentureは、安全で広範なAIの普及こそが、社会に対する大きな力(force for good)になると信じている。
ただし、その可能性を現実化するための2つの必須条件がある。
第一に、AIは生産性のためだけでなく、成長のために使われなければならない。
第二に、企業と国家は、AIのチャンスを掴むために、自らを整えなければならない。
この2つ目、「整える(getting themselves in order)」という表現が、Sweet氏のメッセージの核心です。
この夏に実施した最新サーベイでは、C-suite(最高経営層)の80%が、AIの最大の価値は"成長"にあると信じている。しかし、日常のオペレーションと語られるナラティブでは、その焦点がまだ薄い。
競争基盤の変化
Sweet氏は、過去の技術革命(アナログからデジタルへの移行など)との違いを明確に語りました。
かつての技術変革では、業界ごとにごく少数のリーダーが生まれた。しかし今起こっていることは違う。すべての産業で、一つや二つではなく、多数の企業が急速に動いている。プロジェクトやパイロットの話ではなく、経営チームが「会社の基盤を変える」と宣言している。
グローバル自動車会社はすべてのデータをデジタルツインで扱い、あらゆることを変えようとしている。1つや2つの工場ではなく、20、50、80の工場へと一気に展開する視点で。
Reinventionという言葉
スピーチ全体を貫くキーワードが、Reinvention(再発明) でした。私もAWSの年次イベントのre:Inventでよく聞く単語です。
AIは非常に強力だ。実のところ、これはリーダーにとっての贈り物だ。5〜6年前にはなかったものが、私たちに与えられた。しかしそれは、Reinvention(再発明)を要求する。
Reinventionとは、既存のものを根底から変えること(to radically change something that exists) だ。そしてAIはすべての産業、すべての企業に組み込まれる。産業コンプレックスにおいて、ドメインの専門性と、データと、強みを持ち、Reinventionを受け入れる企業が勝つ(Who Will Win)。
Sweet氏はAccenture自身についても赤裸々に打ち明けました。
2022年11月にChatGPTが登場した時、私たちは1か月以内に最初のP&L構造変更を実行した。そして数週間前、会社史上最大のオペレーティングモデル変更を実施した。2019年に私がCEOに就任した際に導入したオペレーティングモデルを、自ら壊したのだ。
3つの原則
最後にSweet氏は、自らのリーダーシップ哲学として3つの原則を語りました。
第一に、常に正しいことをすること。
第二に、卓越性と同時に謙虚さ(humility)を持ってリードすること。謙虚さこそが私たちを変化させ、異なる役割を理解する力を与える。
第三に、変化する勇気と、人を引き上げる能力を持つこと。
グローバルトップコンサルのCEOが「既存の枠組みを自ら壊す」と発言する力強さがものすごく印象的でした。日本のIT企業だと、私がよく目にするのはDeNAの南場さんですが、こういったドイツ首相・ブラジル大統領が同席する公式の場で宣言することの重さも強烈でしたね。
ブラジル文化プレゼンテーション — Salgado と Villa-Lobos

Accenture Sweet氏のスピーチの後、会場は一転、ブラジル文化プレゼンテーションの時間に入りました。
特に美しかったのが、昨年亡くなった世界的写真家 Sebastião Salgado 氏の作品群が大画面に投影されるシーン。Salgado氏はブラジルの誇る巨匠で、社会派ドキュメンタリーフォトとアマゾンの自然を主題にした作品で知られます。2025年に逝去しており、今回のセレモニーは追悼の意味も込められていました。作品はSalgado夫人 Lélia Wanick Salgadoからの提供、Fernando Eichenberg氏キュレーションによるものです。
あわせて、ブラジル生まれの大作曲家 Heitor Villa-Lobos(1887-1959)に触発された音楽が流れる中、ブラジルの身体表現と光のテクノロジーが融合したパフォーマンスが披露されました。Villa-Lobosは、バッハの対位法とブラジルのフォルクローレ(民俗音楽)を融合させた独自のスタイルで、20世紀を代表する作曲家の一人です。
Lula大統領スピーチ — ポルトガル語セッション

それでも断片から読み取れる範囲では、以下のテーマが中心だったものと推測されます。
- ブラジルと独・欧州の歴史的パートナーシップの強化
- ブラジル国内の産業・インフラ投資の加速、特にペトロブラス等の国営企業の役割
- 再生可能エネルギー(水素、風力、太陽光、バイオエネルギー)分野での協業余地
- 教育・職業訓練・スキル開発分野での連携
- EU-Mercosur協定への言及
Merz首相スピーチ — Made for Germany と数字で語る国家戦略

セレモニーの最後を締めくくったのは、ドイツ連邦首相 Friedrich Merz 氏。
Merz首相のスピーチは、徹底的に数字で語るものでした。かなり独特のものを感じましたね。まさにドイツらしい!とでも言いましょうか。この数字で語るスタイルは非常に印象的なプレゼンテーションだったと強く感じました。
オープニング — 未来への自信
私たちは今日ハノーバーで、2026年を未来の日々として開幕する。ここは、前を向く場所だ。自分たちに問いかけ、自分たちに示す場所だ——私たちに何ができるのか、どんなアイデアがあるのか、そして何を信じているのか。
独伯関係 — 200年の歴史
Merz首相は、ドイツとブラジルの歴史的つながりを丁寧に振り返りました。
1824年7月25日。39人のドイツ移民が、ブラジル最南部リオグランデ・ド・スル州に上陸した。彼らは新しい生活を求めて船に乗り、学校を建て、そこに自分たちの存在を築いた。現在のブラジル人の約10%が、ドイツにルーツを持つ。7月25日は、ブラジルの一部地域で今なお「ドイツ移民の日」として記憶されている。
そして、これを現代の移民政策にそのまま繋げました。
ドイツも、移民を同じように扱う国であり続けたい。私たちは移民を必要としている。労働市場への移民を必要としている。そのために、欧州で最も近代的なデジタルベースの移民システム——Work and Stay Agencyを立ち上げつつある。移民申請を、短時間で、ほぼデジタル完結で処理する。働き、研究し、共に欧州を発展させたい人々を、このメッセから招待する。
経済関係の現状もクリアに提示されました。
- ドイツ→ブラジル輸出(2024年): 130億ユーロ超
- ブラジル→ドイツ輸出: 約90億ユーロ
- ブラジルはドイツの南米最重要貿易パートナー
- ドイツはブラジルの欧州最重要貿易パートナー
EU-Mercosur協定、26年越しの発効
Merz首相が力を込めて語ったのが、EU-Mercosur自由貿易協定の発効です。
26年かかった。ようやくだ。EU・南米諸国間の自由貿易協定は、来週から暫定発効する。 初めての暫定発効だ。これは、私たちの関係を深化させ、世界の経済秩序における欧州・南米の存在感を強化する、非常に重要なシグナルである。
これは、約7億人の自由貿易圏の始動を意味します。ハノーバーメッセの開催期間中という象徴的なタイミングでの発効でした。
6つの重点技術
Merz首相は、ドイツ連邦政府が重点を置く6つのキーテクノロジーを明示しました。
- 人工知能(AI)
- 量子技術
- バイオテクノロジー
- マイクロエレクトロニクス
- 気候中立エネルギー生成
- 気候中立モビリティ
130億/30億ユーロの産業AI投資
民間投資1,300億ユーロに対し、公的資金300億ユーロを梃子として投入する。2030年までに、ドイツのデータセンター容量を2025年比で2倍にする。これはDorothee Bär大臣のデータセンター戦略の一環である。
[要確認: 民間/公的の金額比(130B€ / 30B€)が正確な文脈か要確認。文字起こしでは「Milliarden」=十億単位]
Made for Germany — 129社・800B€のコミットメント
そして、Merz首相のキーメッセージとなったのが "Made for Germany"イニシアチブ です。
129社の企業と投資家が、2028年までに8,000億ユーロ超の投資をドイツに対してコミットした。これほど短期間でこれほど大規模な投資表明がなされたことは、これまで一度もなかった。このイニシアチブには、産業界におけるAIの発展と応用も含まれている。
これは、ドイツ企業のみならず外国企業も含む、ドイツ立地への大規模投資パッケージであり、メルツ政権の中核政策のひとつです。
気候中立モビリティへの現実路線
さらに、Merz首相は気候中立モビリティについて、単純な電動化一辺倒ではない現実路線を示しました。
モビリティの気候中立化に関して、今日はLula大統領が強く示してくれた。電動化だけでなく、欧州・世界に10億台超存在する内燃機関車にも、2035年以降の選択肢を与える必要がある。それには合成燃料、新技術が必要だ。ブラジルは、この領域で欧州より先を行っている。
ZVEI Kegel氏と同じメッセージ — 「産業AIをAI Actから出す」
そして、Merz首相はスピーチの核心で、ZVEI会長Kegel氏の主張にそのまま呼応する形で明言しました。
私は、欧州のAI規制を緩和すること、そして可能であれば、産業AIを、現在の過度に窮屈なEU AI Actの"コルセット"から切り出すことに取り組む。
「コルセット(Korsett)」という言葉を使ったのは非常に印象的です。業界団体ZVEIが一貫して使ってきた表現を、連邦首相がそのまま踏襲して公式の場で発言した。ドイツの産業AI戦略は、国と業界が完全に足並みを揃えている。これは欧州の本気度を示す、今回のセレモニーで最も重要なシグナルだったと思います。
まとめ — 日本の製造業DX関係者への3つのインプリケーション
オープニングセレモニーを通して強く感じたのは、ドイツ・欧州が 「産業AI時代の勝者を狙う国家戦略」 を、政府・業界団体・グローバルプレーヤー(Accenture)が一体となって宣言しているということでした。個別の具体的な技術の話ではなく、国家戦略や産業規制の枠組みでのメッセージが強く打ち出されていて、これまで自分が参加してきたイベントの内容とは、あきらかに次元が異なる部分での話が中心となっており、非常に刺激が強かったです。
改めて、このオープニングセレモニーのメッセージを3点にまとめてみます。
1. 産業AIは「規制緩和」の対象になる
技術・規模だけでなく、規制環境そのものが競争要因になる時代に入っています。ZVEI Kegel氏とMerz首相が完全に揃えた「EU AI Actから産業AIを切り出す」というメッセージは、業界と政府が同じ土俵で政策を動かしているということ。日本においても、経産省・業界団体・企業が連動した規制環境の議論がより一層重要になるでしょう。
2. 「Made for Germany」的な投資コミットメントが国の競争力の中核になる
129社で8,000億ユーロ(約130兆円)という規模は、日本の視点で見ても巨額です。これはドイツが「製造拠点として選ばれる国」であり続けるための、国家ブランディング戦略と解釈できます。日本企業にとっても、グローバル製造拠点の選択肢としてドイツの位置づけが今後変わっていく可能性を、注視しておく価値があります。
3. Reinventionを受け入れた企業が勝つ
Julie Sweet氏の言葉を繰り返します。「既存のものを根底から変えることを受け入れる企業が勝つ」。これは、既存事業の外側にAIを"貼り付ける"のではなく、既存事業そのものを再発明する覚悟が問われるということです。日本の製造業のお客様と向き合う中でも、このキーワードは必ず頭に置いておきたいと強く感じました。
まだ自分の中ではこのセレモニーのメッセージを消化しきれていないというのが、正直な感想なのですが、明日以降のハノーファーメッセ、このセレモニーの内容を頭の片隅に置きつつ、今後の製造業の行く末を探求できればと思っています。
それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。
参考、公式資料
- HANNOVER MESSE 2026 公式サイト
- Opening Ceremony 公式ページ
- Hermes Award 2026 公式ページ
- Hermes Award 2026 ノミネート発表(Control Design)
- Schaeffler: ヒューマノイドロボット向けアクチュエータープレスリリース
- Ziehl-Abegg: レアアース不要エレベーターモーター ノミネート
- BTRY: Hermes Startup Award 受賞報道
- ZVEI 公式サイト
- Fraunhofer-Gesellschaft 公式サイト
- Accenture 公式サイト
- 田中聖也: HANNOVER MESSE2026を調査してみた #HM26 | DevelopersIO











