【レポート】SUS304 | Using AI/ML for sustained energy efficiency in industrial operationsに参加しました #AWSreInvent #SUS304
はじめに
こんにちは、おおはしりきたけです。2年ぶり2回目のre:Invent 2024に参加しております。
今回は、AI/MLをどのように活用してエネルギーマネジメントをやっているのかが気になったので、本セッションを受けてきました。セッション概要は以下になります。
セッション概要
Manufacturers face increasing demand from customers and public authorities to accurately model, calculate, and report on their product-based carbon emissions. A credible assessment requires internal data management capabilities and the efficient exchange of high-trust information with suppliers. For larger manufacturers this may involve scaling to thousands of suppliers and/or products. Learn how connectivity, trust, and information exchange come together in the value chain, and about the mechanisms behind the modeling and calculation of product-based carbon emissions — and how it all can be accelerated using generative AI services on AWS.
日本語訳
運用および産業用サイトでのエネルギー消費削減は、組織が持続可能性目標を達成するために不可欠です。AI アプリケーションにより、組織がエネルギー消費を最適化することが劇的に容易になります。このセッションでは、機械学習(ML)がどのように設備ベースのコントローラーからの過去のデータを使用して、持続的なエネルギー効率のためのシミュレーションと予測戦略による新しい洞察を導き出すのに役立つかを学びます。フォルクスワーゲン・ポズナンとアマゾンが、どのようにML ソリューションを実装して、彼らの運用と施設全体でエネルギーの最適化を達成したかを学びます。
登壇者
- Maija Anderson:Senior Practice Manager, Amazon Web Services
- Jorn Deiseroth:CIO Volkswagen Poznań, Volkswagen Poznań Sp. z o.o.
- Marco Caserta:Applied Scientist, Amazon
セッション内容
AWSの持続可能性への取り組み
- Amazonの2023年持続可能性レポートによると、電力消費の100%を再生可能エネルギーでカバーしている
- 世界最大の企業による再生可能エネルギー購入者である
- 500以上の再生可能エネルギープロジェクトを展開している
- 2023年にはカーボンフットプリントを3%削減した
Accentureの2024年調査によると、AWSでのワークロード実行は、オンプレミス比で4倍のエネルギー効率があり、最適化されたワークロードでは、カーボンフットプリントを最大99%削減可能しているとのことでした
Volkswagen社の事例詳細
ここからVolkswagen社のJorn Deiseroth氏に交代してVolkswagen社の取り組みを説明していただきました。
基本理念として、「使用しない電力が最も環境に優しい」という考えのもと、工場内の大規模な電力消費装置の最適化に着手。
- 企業概要
- 13ブランドを持つ自動車メーカーグループ
- 世界114工場で製造を展開
- 68万人以上の従業員
- 年間920万台の生産(週25万台)
- 年間収益3,200億ドル以上
- 工場における圧縮空気システムの最適化が課題とのことでした。
- 全電力消費の20%以上を占める
- 70の生産ラインに4つのコンプレッサーで供給している
- 複雑な需要パターン(2^70通りの組み合わせ)がある
第1段階:アナログアプローチ
長年にわたり、工場の圧縮空気システムは熟練作業者の経験と勘に頼って運用されており、70の生産ラインと4つのコンプレッサーという複雑なシステムを、手動で制御していました。
その中で、以下のような課題に直面していました
- 2^70通りもの生産ライン稼働パターン
- コンプレッサーの3つの状態(オン・アイドル・オフ)による81通りの制御オプション
- 天候や生産状況による日々の変動への対応
- エネルギー効率の最適化が困難
第2段階:データ収集基盤の構築
まず、システムの実態を把握するため、以下の取り組みを実施
- 新規センサーの戦略的な設置
- データ品質管理システムの導入
- 入出力データの履歴分析体制の確立
データに基づく目標設定をするために、収集したデータの分析により
- 5%のエネルギー削減を現実的な目標として設定
- 最適化のポテンシャルを定量的に評価
- 具体的な改善ポイントを特定
システム理解を深めるために以下を実施
- 生産スケジュールと空気消費量の相関関係の発見
- 天候や温度による影響度の把握
- メンテナンス時期が及ぼす影響の分析
第3段階:機械学習ソリューションの展開
- モデル開発環境の整備
- Amazon SageMaker Studioでの開発環境構築
- パイプラインによる自動化プロセスの確立
- 約30の本番モデルの段階的な展開
- データフローの最適化
- オンプレミスシステム(Oracle/MS SQL)とのシームレスな統合
- リアルタイムデータ処理の実現
- BIツールによる可視化システムの構築
技術的な実装としては以下のような形でCDKで管理しサーバーレスベースで作成されています。
- AWSのサーバーレスアーキテクチャを採用
- データはS3バケットで管理
- SageMakerで約30の本番モデルを運用
- データメッシュソリューションでデータを統合管理
現在進行中の取り組みと今後の展望
現在進行中の取り組みとしては、システム統合の深化と新たな知見の獲得として以下のようなことを進めているそうです。
- 現在進行中の取り組み
- コンプレッサー制御ソフトウェアとの完全統合を推進
- サプライヤーと協力したシステムアップグレード
- 完全自動化に向けたステップの実行
- 新たな知見の獲得
- 専門家が想定していなかった新しい制御戦略の発見
- より効率的な運用パターンの特定
- システムの安定性向上に向けた継続的な改善
今後の展望として、この3段階のプロセスを経て得られた知見は、今後以下の展開に活用される予定です
- 他のVolkswagen工場への水平展開
- 換気、暖房、冷却、乾燥システムへの応用
- グループ全体でのエネルギー効率の最適化
このように、Volkswagen Poznańの取り組みは、段階的なアプローチと最新技術の効果的な組み合わせにより、製造業における環境負荷低減の新しいモデルを示しています。
Amazon HAVC エネルギーの最適化
Amazonの規模
- 世界24カ国、2,862サイトでの事業展開
- 1日160万個以上のパッケージ配送
- 年間収益6,500億ドル超
エネルギー消費の課題
- HVACシステムが全消費の20-40%を占める
- 複雑な需給バランスの管理が必要
- 供給:電力グリッド、太陽光発電、バッテリー
- 需要:物流設備、HVAC、冷蔵施設
予測モデルの構築
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- 太陽光発電量の予測
- 気象データの活用
- 24時間先までの予測
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- 内部温度の予測
- 外部温度の影響分析
- 人員数の変動考慮
- 建物の特性反映
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- 総エネルギー消費の予測
- 上記予測の統合
- 全体最適化の実現
ラスベガス倉庫での実装例
- Before:固定温度管理
- 常時78°F(約26℃)での制御
- 外部環境に関わらず一定設定
- After:動的温度管理
- 太陽光発電量に応じた最適制御
- ピーク時:70°F(約21℃)まで事前冷却
- 発電減少時:80°F(約27℃)まで段階的に調整
アーキテクチャは以下の構成になってます。
- 1.データ収集(Data acquisition)
- 建物管理システムからのセンサーデータ
- 有線/無線ゲートウェイを介したデータ収集
- サードパーティソフトウェアからのデータ
- Amazon S3データレイクへの統合
- 2.データパイプライン(Data pipeline)
- 複数のデータソースの統合
- AWS Glueによるデータ処理
- データクリーニングと前処理
- データ品質チェックの実施
- AWS標準のデータ品質サービス
- カスタムルールの適用
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- 機械学習パイプライン(ML pipeline)
- 予測モデルの実行
- 太陽光発電量の予測
- 内部温度の予測
- エネルギー消費量の予測
- モデルの定期的な再トレーニング
- パフォーマンス指標のモニタリング
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- 実行(Execution)
- Lambda関数による制御実行
- HVACシステムへのセットポイント値の適用
- DynamoDBを使用したデータ管理
- 監査とモニタリング用のデータ保存
このアーキテクチャにより、データ収集から実際の制御まで、シームレスな最適化フローを実現しています。
成果と今後の展開
実現された成果としては以下になります。
- エネルギー消費25%削減
- CO2排出量年間468トン削減
- コスト年間39.5万ドル削減
次のステップでは、スマートグリッドの実現に向けて以下を実施していくとのことでした。
- 複数倉庫間での動的なエネルギー管理
- 再生可能エネルギーの効率的活用
- エネルギーストレージシステムの統合
このプロジェクトは、予測モデルと動的制御の統合により、大規模施設のエネルギー管理を革新。個別施設の最適化から、ネットワーク全体の最適化へと発展を目指しています。
まとめ
このセッションでは、Volkswagen とAmazonという異なる産業における機械学習を活用したエネルギー最適化の取り組みが紹介されました。
特に印象的だったのは、両社とも「使用しないエネルギーが最も環境に優しい」という基本理念のもと、実践的なアプローチを展開している点です。Volkswagenは工場の圧縮空気システムを、Amazonは倉庫のHVACシステムを対象に、それぞれの課題に対して段階的な最適化を実現しています。
また、両社ともAWSの各種サービスを効果的に組み合わせ、データ収集から予測モデルの構築、実行までの一貫したアーキテクチャを確立している点が注目に値します。その結果、Volkswagenは12%、Amazonは25%というエネルギー削減を達成し、具体的なCO2削減とコスト削減を実現している部分も結果が出ていて素晴らしいと思いました。
このセッションは、機械学習とクラウドテクノロジーの組み合わせが、産業界のサステナビリティ実現に大きく貢献できることを示す良い事例でした。特に、理論だけでなく実践的な成果を伴う点で、今後の産業界全体のエネルギー最適化のモデルケースとなると感じました。