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Amazon Go体験ツアーを組んでシアトルに行ってきました。 〜レジ無し店舗体験編〜

レジ無し店舗で話題のAmazon Goがあるシアトルに23人でツアーを組んで行ってきました。実際に体験したことと考察をまとめました。単にコスト削減や雇用対策ではない、アマゾンが描く未来の購買体験について理解を深めます。

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Amazon Go体験ツアーを企画して行ってきました

昨年公開時から企画を温めてきたAmazon Go体験ツアー。社内外から23名を集めて遂に行ってきました!今回は単に行くだけではなく様々な体験を通じて参加者の交流を深めて、日本に帰ってきてから実際に行動を起こすことが旅の目的となっています。Amazon Goだけではない、AmazonやAWSやシアトルの今についてお届けします。

現地に到着したら直ぐにAmazon Go!

まずは早速Amazon Goです。場所は滞在したシェラトンホテルから徒歩10分ほどです。

ダウンタウンの少し北側に位置しています。数年前まで雑居ビルや駐車場があるあまり治安の良い地域では無かったと思いますが、Amazonが地域一帯の開発を進めているようで、とてもキレイに整備されていました。建設中のビルが多数あり、数年後には見渡すかぎりのアマゾン街になっているのかも。

また、歩道と道路の間に自転車専用レーンが出来ていまして、シェアサイクルがたくさん置いてありました。これは中国の形式と同じです。中国では壊れて使えなくなった自転車が道路に捨てられていましたが、シアトルではお上品に路駐してあります。

店舗併設のキッチンでサンドイッチなどを調理しています。

入り口はこんな感じ。自動ドアと入店ゲート。入店に困らないようにスタッフの人がニコニコしながら挨拶してくれます。

ランチボックスやサンドイッチなどがキレイに配列されています。

ミールキットや冷凍食品も並んでいます

調味料なども普通に揃っています

Amazon Goのお土産コーナーです。

商品の補充風景です。ケースから取り出して並べています。特に端末操作していませんね。

こちらは端末操作をしています。品出しとは別に行っているようです。在庫確認でしょうか。

小さな商品はカゴに入っています。

イートインコーナーもあります。電源やWiFiがあります。

レンジで温めてその場で食べられます

看板でアピールしているのは2点です。朝食を買うことと、ミールキットを買って帰ることです。

ミールキットの種類も豊富です。

Amazon Goのハード&ソフトな部分を観察

店舗体験は十分にできましたので、次にハードやソフト面での確認をしてみたいと思います。

まずは天井部分です。ものすごいメカ感がありますが、ザ・カメラレンズで監視という感じのものは少なく感じました。これは、映像を残したいわけではなく、誰がどの商品をピックアップしたのか知りたいだけなので、棚の数だけ確認するためのセンサーが天井に付いている感じでした。その他は、エアコンダクトやケーブル配線レールなどですので、以前から言われていた監視されている感はあまりありませんでした。むしろ、レジを通らずにゲートを出る罪悪感というか背徳感で初回は背筋がゾクゾクしました。

別の角度からも

ほぼ全ての棚の奥はこのようになっています。上段の棚のケーブルが見えますので、何かしらセンサーがあることが伺えます。

焼き豆腐売ってますw。このケースにはドットのマーカーが付いています。おそらく店内で調理するなど個体差があるものや、機械学習させるまでもない商品サイクルの短いものは、ドットマーカーで識別しやすくしているのではないでしょうか。

小さい商品はカゴに入っています。カゴを持ち上げることはできませんでした。おそらく重量センサーがついているのではと予想しました。また、商品パッケージにドットマーカーやICタグなどは付いていませんでしたので、画像を事前に学習してあるのではと思いました。

棚の裏側にカメラが!棚を下から覗いてみると、小さなカメラが多数ありました。人を見ているのではく、商品や手を見ているのではと感じました。

Amazon Goは、入店時にAmazon IDと人を関連付け、店内での行動を天井のカメラで追跡しているようです。そして、商品を取り出したかどうかについて、重量の変化や棚の小さなカメラで補助的に確認しているように感じました。朝は入店してから1分で出るような客も多く、お昼は店内が人で一杯になっていましたが、ちゃんと持ち出した商品が決済されていました。本当に素晴らしい仕組みです。

Amazon Goアプリを起動したらバーコードが表示されます。入店後にアプリを起動しつづける必要はありません。つまり何も通信しません。

商品を手にとって退店すると、数分後に買い物履歴に持ち帰ったものが購入済みとして表示されます。

もし間違った商品が購入済みとして表示されていたら、Refundとして返金を要求することができます。おそらく商品を返品する必要はありません。割り切りですね。もし、該当する商品を持ち帰っているにも関わらず返金操作を繰り返したら、、、ブラックリスト入りしてしまい、入店拒否される日がくるかもしれません。おそらく、購買行動から顧客をスコアリングしているのではないでしょうか。

さて、3日間ではありましたが、毎日複数回訪問して便利さを深く体験することができました。繰り返しになりますが、この体験は繰り返すほどに金額を気にしなくなります。自分の家の冷蔵庫から取り出すような生活の一部になります。

もしも、AWSを使ってAmazon Goを作るなら

さて、ここからは完全に"妄想"ですが、AWSで同じ仕組みを作ろうと思ったらどこまで楽できるかご紹介してみたいと思います。

ユーザー認証基盤

まずは、顧客IDの統合です。Amazon Cognito User Poolsを使いましょう。これでスマホとウェブで統合されたユーザー認証基盤ができます。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/cognito/

IoTデバイス管理

多数のハードウェアが設置されていますので、これをいい感じに管理したいはずです。AWS IoTを使いましょう。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/aws-iot/

人物の検出と追跡

入店後にお客さんの行動を追跡するために、Amazon Rekognition Videoを使いましょう。デバイスから映像をアップロードするためにAmazon Kinesis Video Streamsを使うと更にお手軽です。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/recongition-video/

商品画像の学習

店内にある商品を分類するため、教師データを与えて学習させましょう。Amazon Sagemakerを使います。

また、Amazon Rekognition Imageを使えば、学習済みのモデルを利用可能です。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/amazon-sagemaker/

データの保存と分析

蓄積されたデータから分析を行います。Amazon S3をデータレイクとして用いて、その後ろで、Amazon AthenaやAmazon Redshiftを用いて分析できるように加工しましょう。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/data-analysis/

さらにさらに、以下のようなサービスを連携させると、よりリッチで多様な購買体験を提供できるかもしれません。

1クリックのボタン

AWS IoTボタンを使うと、オリジナルのハードウェアを作らなくても、ダッシュボタンのようなことができるようになります。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/aws-iot-1-click/

社内システムと連携

蓄積されたデータを既存の基幹システムと連携してより顧客理解するために、AWS Direct ConnectやAmazon VPCを使いましょう。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/aws-direct-connect/

セキュリティ

外部に公開するアプリやWEBサイトのセキュリティ設定は必須ですが、お高いとか面倒とか色々とつきまといます。そこで、AWS WAFを使ってみてはいかがでしょうか。マネージドルールを使うと、手っ取り早く基本的なセキュリティ対策を施すことができます。

https://dev.classmethod.jp/?s=waf

商品の全文検索

キーワードやカテゴリ名での検索を始め、IDやタグ情報などで商品を検索したいことがあります。Amazon Elasticsearch Serviceを使うと、いい感じに全文検索の仕組みを構築することができます。

https://dev.classmethod.jp/?s=elasticsearch

チャットボットや音声対応

Amazon LexやAmazon Pollyを利用すると、顧客とのインタラクティブなチャットボットや音声UIを提供することができます。Alexa的なことができます。マルチモーダルなインタフェースを提供することで、顧客は好きなときに好きなツールを選択することができ、横串でID統合されていればストレスもありません。

https://dev.classmethod.jp/referencecat/aws-lex/

コールセンター

Amazon Connectを使えば、電話の発着信ができます。コールセンターとして一次受付したり、リマインダーとしてSMSや自動音声の電話を掛けることもできます。サポートセンターになかなか繋がらないと顧客体験は著しく低下しますので、用意しておきたいところです。

https://dev.classmethod.jp/?s=connect

もし、上記の仕組みを全く使わずにゼロから仕組みを構築するのあれば、それ相当の説明が求められると思ったほうが良いかなと。。。

Amazon Goとは何か考察

私なりにAmazon Goが何なのか考えてみました。まず、1回目の体験が重要です。万引きをしているような心のザワつきが大きかったですが、2回目からは何も気にせずに購入することができました。この形態の店舗が増えると、逆にレジに並ぶことが大きなストレスになると思います。また、買った商品の履歴がスマホに必ず保存されるので、同じ商品を買いたいとか、振り返りたいときにとても使いやすいです。ここからレコメンドとかECに繋がっても自然ですね。

次に、商品の値段を見ずに買っていることに気づきました。これは小売においてとても重要な概念のようです。このブランドであれば、このぐらいの価格とサービスであろうと暗黙的に理解してサービスを利用し、実際にそれが理にかなっていれば、繰り返しその商品やサービスを利用するという考えです。Amazon Goでは、商品に集中することができます。飲み物を飲みたいと思ったら、入店して、飲み物を選んで、そのまま退店です。財布を出しません。レジに並びません。大きな自販機のような感覚です。1回の購買体験を10秒で終わらせることができます。1日の自分の時間を最も有効に大切に使うことができます。

ほとんどの店員さんは、商品の補充または店内で案内をしていました。棚に補充する際に端末を使っていません。バックヤードからカゴを持ってきて決まった棚に補充しています。おそらく、店員もIDで入店を行って店内での行動が把握されていると思います。自分の手で棚に置く行為がデータとして取れているので、商品の補充行為としてデータが取れていると思います。店員の配置や実績について後で振り返りしやすいですね。

店内には様々なセンサーが設置されているようですが、現時点のセンサーを調べて模倣しようとしてもあまり意味が無いと思っています。アマゾンの文化的に、多数の実験と失敗を重ねることで、データを貯め、チームとして学習し、より安価に簡単に実現できるように調整を繰り返していく過程であると思います。今日の時点でのハードウェア設置コストを考えてビジネスとして割に合わないかどうか他社が判断するのは得策ではありません。この店舗はあくまでも実験の最中であり、学習を重ねることで有効なセンサーを絞り込んでいくと思います。昨年、社員向けにAmazon Goが公開され、約1年間に渡って一般には公開されませんでした。相当な量のデータや経験を積み、改善を重ねてきたのではと予想しています。今後、店舗に設置されるハードウェアは減り続け、学習済みのモデルと、優れたソフトウェアが残るはずです。特にアマゾンが強いと感じるのは、優れたソフトウェアの部分を、AWS社が部品として安く簡単に使えるようにサービスを提供しています。

先日ニュースでは、シアトルの他に、サンフランシスコでもAmazon Goがオープンすると出ていました。もしかしたら、センサーの種類や数が減っているかもしれません。逆に、今まで見たこともないセンサーが多数設置されているかもしれません。特殊なハードウェアではなく、コモディティ化された安価なカメラなどに置き換わっているかもしれません。全ては実験であり、そこにたまったデータが重要であることは言うまでもありません。日本では万引き対策や雇用対策としてITの活用が言われていますが、アマゾンはデータをビジネスに活かす投資をしています。全世界にスケールする前夜なのではないでしょうか。私達の選択肢は3つです。徹底的に拒絶する。良い所取りで乗りこなす。ゼロから投資して自分で作る、です。私は、1年間で2.5兆円も投資できないので、「良い所取りで乗りこなす」を選択したいと思っています。

最後に

学ぶべきは、「仕組みではなく、文化なんだな」と強く感じたツアーとなりました。

参考資料

Amazon.com: : Amazon Go