[宣伝会議サミット2018セッションレポート]「反転攻勢― “個客”の心を掴み、離さないデジタルマーケティングへの挑戦」

2018年11月15日、宣伝会議サミット2018にて発表された日本たばこ産業株式会社様セッション「反転攻勢― "個客"の心を掴み、離さないデジタルマーケティングへの挑戦」の模様をお伝えします。
2018.12.04

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こんにちは、KONです。

2018年11月14〜15日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて、宣伝会議サミット2018が開催されました。クラスメソッドはゴールドスポンサーとして、事例セッションとブース出展と行いました。本記事では、クラスメソッドのお客様である日本たばこ産業株式会社様事例セッションの模様をお伝えします。

セッション概要

タイトル

反転攻勢― "個客"の心を掴み、離さないデジタルマーケティングへの挑戦

登壇者

日本たばこ産業株式会社 たばこ事業本部 マーケティング&セールスグループ CRM推進部 主任

平谷 朋也氏

はじめに

非喫煙者から見たたばこに対するネガティブな印象や加熱式たばこの競合製品の出現といった、たばこに関する環境の変化により、日本たばこ産業株式会社(以下、JT)は非常に厳しい局面に立たされているのが現状です。本セッションでは、そのような状況からいかにして「反転攻勢」を行っていったのかを解説します。

今回は特にデジタルマーケティングをテーマとして、データ分析によってひとりひとりのお客様に対して適切な商品、使い方、シーンを提案してゆくJTの取り組みについてご紹介します。

事業紹介

所属について

JTはたばこ産業の他に医薬事業、食品事業があり、平谷氏はたばこ事業本部のデジタルマーケティングの部署に所属。協力会社合わせて20〜30名程度のチームです。

たばこ事業について

紙巻きたばこにおいてはシェア6割以上の高い競争優位性を持っていいます。加熱式たばこPloom TECHも開発しお客様へ提供していますが、今のところ競合他社ほどのシェアはありません。

単なる商品説明から価値の訴求へ

たとえば、「Ploom TECHは紙巻きたばこに比較して非常に匂いが少ない」と言われても、お客様は買いたいと思いません。なぜなら、匂いがないことによって自分の生活がどうかわるかまで連想ができないからです。これを「Ploom TECHを自宅で使うことによって家族から『くさい』と言われなくなり、たばこによるコミュニケーションロスがなくなる」と、具体的なシーンに沿った説明にすれば、使いたいと思うようになるのではないでしょうか?

このように、商品を買ってもらうにはお客様ひとりひとりのシーンを理解して価値を訴求していく必要があると考えています。

事業環境

たばこ事業のマーケティング活動おいて、できないことが非常にたくさんあります。

  • NG
    • たばこの値引き
    • たばこのベタ付け(ノベルティやおまけと一緒に販売すること)
    • 不特定多数へのたばこ配布や広告
  • OK
    • 抽選をはさむような懸賞
    • 成人喫煙者に限ったサンプリングや広告訴求

裏を返せば、成人喫煙者であることを確認できれば、プロモーション活動ができます。そのため、JTは昔からお客様のリストを集めて会員化し広告を打つ手法を行ってきました。具体的には、たばこのパッケージの一部分を切り取って台紙に貼り付け、郵送してもらうキャンペーン等を実施していました。

2つの変化

このような環境のなか、たばこ業界に2つの変化が起きました。

顧客接点のデジタル化

デジタル化により、パーソナライズが簡単にできる環境が整いました。ひとりひとりのお客様に広告を見てもらうには、属性や状況に応じたシナリオを設計してユーザーエクスペリエンスを提供することが必要になりました。

加熱式たばこの登場

これにより、お客様の消費行動が大きく変化しました。

紙巻きたばこは、一度ひとつのブランドを選択したら、同じブランドを何度も購入するという商品特性がありました。しかし、加熱式たばこは比較的高価で、一度購入すると他に移ることはあまりありません。購入の際はネット検索や口コミ、利用者の意見、他社製品とのスペック比較などを参考にして選択します。

また、加熱式たばこは故障・磨耗するので、磨耗を予測してリテンションする必要があります。

加熱式たばこは今までの紙巻たばことは消費行動が異なるため、マーケティングの手法自体を見直さなければなりません。

以上2つの変化により、

  • お客様ひとりひとりに適した商品を選択してもらうために、データを駆使して個別に提案する
  • お客様の行動を予測して、適したタイミングで提案する

という取り組みを行う必要がでてきました。

「個客」中心のマーケティングへ

JTが定義するお客様とのコミュニケーションの流れ

  1. いろいろな場所からJTのサイトを認知
  2. JTスモーカーズIDの取得(身分証の提示が必要)
  3. お得感、便利感を実現するコンテンツを閲覧
  4. 製品情報閲覧
  5. ロイヤルティ醸成(継続して購買していただいているお客様向けの専用ポータルなど)

この順番には理由があります。たばこ広告はそもそも成人喫煙者にしか打てないため、まずはお客様にJTスモーカーズIDに登録してもらう必要があります。しかし、製品情報を見るためだけにIDを取得するお客様はいません。そのため、IDを取得した方に対しての納得感や信頼感を創出した後で、初めて製品情報の露出を行います。

すべてのお客様がこの導線を辿るわけではなく、購入している銘柄や属性をパーソナライズして、適宜適切なコンテンツを出しています。

各施策の詳細

お客様の属性にあわせたWeb広告

  • 居住地域によってバナー広告を出し分けたり、予約をしたにもかかわらず未購入のお客様のみ特定の広告バナーを表示したりします。

お得感・便利感を出す

  • お客様の課題に応じてコミュニケーションを変化
    • 人によって何を得だと感じるか、何が継続的な利用につながるかが異なるため、様々なコミュニケーションにおいてインセンティブとしてお渡ししているものを分けています。
  • 喫煙所マップの提供
    • ポイントがたまる喫煙所やクーポンを発行して、お得感を演出します。

個客に合わせたコミュニケーションの変更

  • 購入検討時、購入直後、継続利用の3つのフェーズに分けて、お客様の現在の状況に合わせてコンテンツを出し分けています。

ロイヤルティ醸成

  • ポイントプログラムのデジタル化
    • 箱の一部を切り取って郵送ではなく箱に印刷されたQRコードを読み取ってもらい、オンラインに閉じたキャンペーンにします。
  • ブランド別会員向けプログラム「Ploom Owner’s Club」
    • 利用シーンの提案や、個々のユーザーの使い方について情報交換を行う会員向けプログラムです。コンテンツ閲覧のたびにポイントを獲得でき、ポイントの高いお客様ほどよりよい優待プログラムを受けることができます。Ploom製品及びPloomブランド全体のリテンションをかけてゆくのが目的です。

導入したソリューションについて

今まで解説しました施策のパーソナライゼーションにはデータが必要になります。そこで、JTがデータ分析においてどのようなソリューションを活用しているのかをご紹介します。

JTが保有しているデータ

  • 属性情報
  • アンケートデータ
  • 購買履歴(Ploomオンラインショップ)
  • 行動情報
  • 施策を行った履歴

まずはこれらのデータをTreasure Dataに入れます。Treasure Dataは簡易なMAとしても利用しています。

さらに、課題発見、施策実行、モニタリング、振り返り等を行うために、Amazon Redshiftという高速なデータベースとTableauというBIツールを利用しています。RedshiftとTableauを組み合わせたデータ分析基盤構築サービスがクラスメソッドのカスタマーストーリーアナリティクス(以下、CSアナリティクス)です。

選定理由

Treasure Data

  • データを一元化できる
  • データの投入・切り出しが簡単
  • 導入リードタイムが早く、コストも安い

CSアナリティクス

  • 調達から導入、運用、保守するとなると多大なる労力を要するRedshiftとTableauがパッケージ化されている
  • 運用についてJTはほとんど関与せず全てクラスメソッドが実施するため、いい意味でブラックボックス化
  • JTのビジネスや新しい技術を深く理解した上で提案を行ってくれた

ダッシュボードから見えてくる課題

ドリルダウンで個客へのアプローチ

  1. セブンスターのソフトパックは購入者が非常に多いが、ポイント獲得のバーコード読み取り数は少ない、つまり「パックのQRコードからキャンペーンへ応募できることについて認知されていない」という課題が見えてくる
  2. セブンスターのソフトパックを購入しているお客様に限定した認知向上施策を実施
  3. 施策実施後、該当のお客様からのバーコード読み取り数が増えたことがダッシュボードからわかる
  4. ダッシュボードをさらにドリルダウンすると、どんな属性のお客様が反応したのかがわかる
  5. 反応していない属性のお客様に対して、改めて別の施策を打つことができる

このように、ダッシュボードを作っておくことで常にROIを確認できますし、次の施策につなげることができます。

施策の実行もツール上で可能

仮説構築、課題発見、振り返りだけでなく、実行の部分もツール上で実施可能です。

  1. あるダッシュボードで、あるセグメントをクリックすると、そのリストデータを出力することができる
  2. これらリストを独自のシステムに投入することで、即座にマーケキャンペーンをCSアナリティクス上から実施するこができ、PDCAすべてをサービス上で終わらせることができる

経営層の判断スピードアップ

経営層を含む本社関係者向けに、KPIをモニタリングできるダッシュボードを作成しました。現在JT社内では200〜300名がダッシュボードを見て意思統一や素早い判断を行っています。

予測分析

データ分析によって、過去だけでなく未来に向けたコミュニケーション施策までも検討可能です。

  1. 大量のデータを機械学習にかけて、現在メビウスを吸っているある特定のお客様が半年後何を吸ってるかを予測
  2. 例えば、88%の確率でそのお客様が今の銘柄を吸い続けてくれるだろうという予測結果が出てくるとする
  3. 吸うのをやめてしまうだろうと予測したお客様に対して優先的にキャンペーンを実施、ニーズを先読みする

まとめ

データと分析によって、ひとりひとりのお客様とのコミュニケーションを図ろうとするJTの挑戦についてお話ししました。しかし、お客様のデータをいただくには、お客様にそれ相応の価値を提供しなければなりません。そのためには、個客にマッチしたブランドや商品を提案し、お客様の行動を積極的に変えていくようなマーケティングを実施する必要があります。JTでは、お客様にさらに満足していただくために、2019年にPloomのラインナップを増やします。

また、喫煙者だけでなく喫煙しない方の不安を払拭する必要があります。まさにそれがJTのコーポレートメッセージ「ひとのときを、想う。」に集約されています。

セッション受講の感想

広告の制限がある、かつ競合製品が市場シェアの大半を占めているなかで、いかにして1to1マーケティングをまわしていくのか、私自身にとっても非常に興味深いお話でした。また、このようなデジタルマーケティングの取り組みをクラスメソッドのデータ分析基盤が支えていることを非常に光栄に思います。

しかも、JTさまに本セッション受講者全員分のPloom TECHをご用意していただき、会場出口でたばこを吸っている方や分煙活動に興味がある方へ会社紹介としてPloom TECHを進呈という太っ腹なご対応まで!平谷さん並びにJTの関係者のみなさま、本当にありがとうございました。

データ分析でお悩みの方、ぜひご相談ください

クラスメソッドは、これまでに多数のマーケティングシステムや顧客分析基盤を設計し、ユーザー企業のビジネスを支援してまいりました。デジタルマーケティングのデータ活用に課題をお持ちの方はお気軽にご相談ください。

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