ダッソーシステムズのブースで見た「設計から運用まで、まるごと仮想ツイン」の世界 #HM26

ダッソーシステムズのブースで見た「設計から運用まで、まるごと仮想ツイン」の世界 #HM26

ハノーバーメッセ2026のダッソーシステムズブースで、製造業向けガイドツアーに参加してきました。AIアシスタントAura・Leo・Marie、仮想空間での生産ライン設計、ARでのリアルタイム生産管理、そしてソフトウェアのセキュリティまで、設計から運用までを一つの仮想ツインで束ねる世界を紹介します。
2026.06.08

「設計から製造、運用、そしてソフトウェアのセキュリティまで、すべてを一つの仮想ツインの上に乗せる」

ハノーバーメッセ2026の会期4日目、ダッソーシステムズのブースで製造業向けのガイドツアーに参加してきました。

AIアシスタント、仮想空間での生産ライン設計、ARを使ったリアルタイム生産管理、そしてサイバーセキュリティと、設計の上流から運用・保守の下流まで一気通貫で見せてもらえる、密度の高いツアーでした。

ダッソーシステムズは製造業の現場では超有名企業ですが、ITエンジニアの読者にとっては少し馴染みが薄いかもしれません。本記事では、まず会社の位置づけを簡単に整理したうえで、ブースツアーの流れに沿って見てきた内容を紹介していきます。

ダッソーシステムズとは — 今回のブースの位置づけ

ダッソーシステムズ(Dassault Systèmes)はフランスに本社を置く、製品設計・製造ソフトウェアの大手ベンダーです。ハイエンドCADの「CATIA」、中小企業まで広く普及している「SOLIDWORKS」、製造・生産領域の「DELMIA」、解析(CAE)の「SIMULIA」、PLM(製品ライフサイクル管理)の「ENOVIA」といったブランドを擁し、それらを束ねるクラウド基盤が「3DEXPERIENCEプラットフォーム」です。

基本的な公開情報を整理しておきます。

  • 公式サイト: https://www.3ds.com/
  • 本社: フランス・ヴェリジー=ヴィラクブレー(Vélizy-Villacoublay)
  • 設立: 1981年(ユーロネクスト・パリ上場、CAC 40構成銘柄)
  • 売上高: 約62.4億ユーロ(2025年通期、IFRS基準、前年比+4%)
  • 顧客数: 全業種・全規模で約39万社
  • 得意領域: 3D設計(CAD)、シミュレーション(CAE)、製品ライフサイクル管理(PLM)、製造オペレーション
  • 主要ブランド: CATIA / SOLIDWORKS / DELMIA / SIMULIA / ENOVIA、統合基盤の3DEXPERIENCEプラットフォーム

近年ダッソーシステムズが強く打ち出しているのが「バーチャルツイン」というコンセプトです。単なる3Dモデル(デジタルツイン)にとどまらず、物理法則や材料特性まで織り込んだ仮想空間上で、設計・製造・運用を丸ごとシミュレーションしよう、という考え方です。

ハノーバーメッセは製造業・自動化・エネルギーの世界最大級の見本市で、2026年は4月20日から24日まで開催されました。シーメンスやマイクロソフトといった大手が軒を連ねるなかで、ダッソーシステムズは「設計から製造・運用までをバーチャルツインで統合する」というメッセージを、エンジニアリングチェーンの上流ベンダーらしい切り口で見せていました。

ダッソーシステムズのブース外観

ブースツアーのはじまり

ツアーは、ブースの一角に用意された会議スペースでのブリーフィングからスタート。軽食まで用意してもらえて、何だか申し訳ない気持ちになりつつ、しっかりいただきました。ありがたい。

ブースツアー前のブリーフィングと軽食

ツアーを担当してくれたのは、こちらの説明員の方。英語で、デモを実際に動かしながら一つひとつ丁寧に解説してくれました。

ブースツアーを担当いただいた説明員の方

Virtual Companion Tools — Aura・Leo・Marie、3つのAIアシスタント

最初に紹介してもらったのが、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で動くAIアシスタント「Virtual Companion」です。役割の異なる3体が用意されていました。

  • Aura — 要件・プロジェクト・変更管理をまたいで知識とコンテキストをつなぐ、ナレッジのオーケストレーター役
  • Leo — 設計から生産まで、エンジニアリングの複雑な課題解決を支援する役。たとえば「このコーナーをもっと滑らかにできるか」といった設計最適化の相談に乗ってくれる
  • Marie — 材料・化学・配合といった科学領域の専門役。「どの金属が最適か」「最大使用温度は」「炭素繊維を使うとコストにどう響くか」といった材料選定を支援する

Virtual Companionによる新しい設計の進め方

ポイントは、これらが汎用の大規模言語モデル(LLM)をそのまま現場に持ち込んだものではない、という点です。産業界で積み上げられてきた知見と、物理法則・材料科学に裏打ちされたモデルを土台にしていることを、説明員は強調していました。新入社員やベテランでない従業員が、分厚いドキュメントを自分で検索しなくても、Auraに聞けば設計上の制約や材料・要件を教えてくれる、というイメージです。

提供形態としては、AI機能はクラウド展開が前提とのこと。ただし企業の社内情報は保護された環境で扱えるハイブリッド構成が可能で、3DEXPERIENCEやERP、設計ガイダンスのデータと連携して回答を組み立てる、という説明でした。なお、Auraはすでに利用可能で、LeoとMarieは2026年中の提供予定とのことです。

ツアーの中では、オムロンとの戦略的パートナーシップにも触れていました。これは会期中の2026年4月21日に発表されたもので、自動化された新工場を構築したい顧客に対し、ハードウェア・ソフトウェア・仮想工場を一体で提供しよう、という座組みです。設計ソフトの会社と制御機器の会社が組むことで、仮想と現実をつなぐ「生きた生産システム」を実現する、という打ち出しでした。

Virtual Line Development — 工場をまるごと仮想空間で設計する

次に見せてもらったのが、生産ラインを仮想空間上で設計・検証する「Virtual Line Development」です。製造・生産領域のDELMIAが中心になる部分で、大きく3つのレベルで説明してくれました。

Virtual Line Development(仮想ライン開発)のデモ

1つ目が 工場レイアウト設計 です。フロー設計、タクトタイム、ライン・設備の配置を仮想空間で組み立てます。面白かったのは3Dスキャンの活用で、既存工場の点群データを取り込んで仮想工場として再現し、そこに機械を置き換えてフローをシミュレーションできる、という流れです。SOLIDWORKSで設計した部品をグローバルライブラリとして使い回せる点も、設計資産が一気通貫でつながっているダッソーシステムズらしいところでした。

仮想空間上での工場・設備の構成

2つ目が 仮想ラインの検証(Virtual Line Commissioning) です。設計して終わりではなく、本番稼働中の実データをフィードバックして、どこで時間をロスしているか、品質の問題はどこかをKaizen(改善)の観点で分析します。仮想環境でテストして課題を直してから実装する、という流れで、立ち上げの効率化とコスト削減につなげる、という説明でした。

3つ目が 設備設計 です。ここで印象的だったのが、マルチベンダー対応とベンチマーク機能でした。KUKAやABBなど複数メーカーのロボットを一つの環境で設計・シミュレーションでき、同じプログラムを複数のロボットに適用して消費電力・サイクルタイム・速度・精度を比較し、最適なベンダーを選定できる、というものです。ロボット同士の衝突を自動検知して、カスタマイズ可能なルールで回避させる機能も備えていました。

AGVのシミュレーションの様子

ロボットの経路は、明確にパスを指定する方法と、ロボット自身に最適な経路を探索させる方法の両方に対応していました。世界で公式リリースされているロボットをライブラリ化している、とのことで、「現実の機種をそのまま仮想で試せる」という網羅性が強みだと感じました。

各種ロボットやAGVが動く様子

AI Powered Robotics — ARとデジタルツインでのリアルタイム生産管理

ツアー後半は、稼働中の生産ラインをリアルタイムに管理する「AI Powered Robotics」のデモです。

AI Powered Roboticsのデモエリア

シナリオはパッケージング・流通ラインの管理で、ツールとしてApple Vision ProのAR眼鏡が使われていました。眼鏡をかけると、電力消費量・スケジュール・ライン供給・ワークオーダーの進捗といった生産データがリアルタイムに表示され、「いまオーダーがどの工程にあるか」を視覚的に追跡できる、という体験です。

AI Powered Roboticsの管理画面

面白かったのが、AIによる自動最適化の例です。カメラで異常(たとえば重力コンベアでパッケージが詰まる)を検知すると、エンジニアに対して「Leo、Z7の重力コンベアを交換できますか」といった提案を自動で生成します。さらにシミュレーション内でパラメータを自動調整してくれるのですが、ここが単なる部品交換ではないところがポイントでした。「コンベアの角度が急すぎてパッケージが転倒する」なら角度を緩める、という調整を、関連する部品の長さや接続まで含めて統合的に行ってくれる、という説明でした。

生産ラインのリアルタイム管理画面

ここで説明員が強調していたのが、デジタルツインとバーチャルツインの違いです。デジタルツインがラインの静的な姿を写したものだとすれば、バーチャルツインは圧力・重量・パッケージの強度・破損リスクといった現実の物理パラメータまで織り込む。だから「仮想空間で動けば、現実でも動く」と言い切れる、という主張でした。シミュレーションでは複数のAGVの視点から同時に確認したり、人が歩く動線との衝突をチェックしたりでき、終了後にはKPIの計算とヒートマップが自動生成されていました。

同じARの仕組みは、保守作業のガイダンスにも応用されていました。タブレットやAR眼鏡で修理対象を自動認識すると、該当する手順が自動表示され、経験の浅い作業者でも正確に作業を進められる、というものです。シリアル番号をスキャンすれば資産管理システムに自動登録され、「シリアルAをシリアルBに交換した」「誰がいつ交換したか」まで自動でログが残ります。過去3か月の保守履歴も呼び出せるので、紙や手書きの転記が不要になり、新入社員の立ち上げ時間も短縮できる、という効果が語られていました。

サイバーセキュリティ — Cyber Resilience Act時代のセキュリティ・バイ・デザイン

ツアーの締めくくりは、サイバーセキュリティ分野の専門家による解説でした。

サイバーセキュリティのリスク分析デモ

背景にあるのが、EUのCyber Resilience Act(サイバーレジリエンス法)です。デジタル製品のセキュリティを義務づける規制で、報告義務は2026年9月、主要な義務の本格適用は2027年12月に控えています。これに対し、設計の最初からセキュリティを織り込む「セキュリティ・バイ・デザイン」のアプローチが紹介されました。被害シナリオ・脅威シナリオ・攻撃分析からリスクを定義し、そこからセキュリティ要件を導出して、システム要件・ソフトウェア要件・テスト戦略まで落とし込む、という流れです。

ここで効いてくるのが、ハードウェアとソフトウェアを統合管理するというダッソーシステムズの強みでした。従来は、ハードウェアの設計とソフトウェアの開発が分離していて、問題が後工程で見つかりがちでした。これに対する具体的な仕掛けが3つ示されました。

  • SBOM(ソフトウェア部品表)の自動生成 — ソフトウェアのリリース時に自動で作成し、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で脆弱性を追跡できる
  • Gitとの連携 — ソースコードを単に複製するのではなく、3DEXPERIENCE上のオブジェクトとしてライブに取り込み、製品と紐づける
  • トレーサビリティチェーン — システム要件からソフトウェア要件、ソースコード、製品までを一本につなぐ

これにより、脆弱性が報告されたときに「どの製品が影響を受け、どのパッチが必要か」を即座に判定できる。逆に「このコードを変更すると、どのソフトウェアパッケージに影響が及ぶか」という影響分析もできる、というわけです。ソースコードを3DEXPERIENCE上のオブジェクトとして扱い、要件から製品まで一気通貫でトレースできるのが、PLMの会社ならではの解き方だと感じました。

Tuleapによるメニュー構成

このソフトウェア管理の中核を担うのが、ダッソーシステムズが2026年3月に買収を発表したEnalean社のALMツール「Tuleap」です。アジャイルなプロジェクト管理・要件管理・トレーサビリティを担うソフトウェア開発プラットフォームで、CATIAのモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)やENOVIAのPLMと組み合わせることで、ソフトウェアとハードウェアの開発を一つの環境でつなぐ狙いです。デモ画面にも「my.tuleap」のメニュー構成が映っていました。設計CADの会社がソフトウェア開発のALMまで取り込みにきている、というのは、ソフトウェア定義型製品(software-defined product)の時代を象徴する動きだと感じました。

ダッソーシステムズブース訪問のまとめ

ダッソーシステムズのブースが見せていたのは、設計の上流から製造・運用・保守、さらにはソフトウェアのセキュリティまでを、一つのプラットフォーム上のバーチャルツインで束ねる世界でした。印象に残ったポイントを3つに整理しておきます。

1. 「バーチャルツイン」が実装フェーズで展開されている

デジタルツインとバーチャルツインの違いを、物理パラメータを織り込むかどうかで明確に説明していたのが象徴的でした。点群スキャンで既存工場を取り込み、複数ベンダーのロボットを並べて性能をベンチマークし、仮想で検証してから実装する。「現実をどこまで忠実に仮想へ持ち込めるか」に正面から取り組んでいるのが、設計ソフトの老舗らしい厚みでした。

2. AIアシスタントの土台が「LLMそのもの」ではない

Aura・Leo・Marieという3体のVirtual Companionが、産業界の知見と物理・材料科学のモデルに裏打ちされている、という打ち出しは納得感がありました。製造現場でAIを使う際の「それらしく嘘をつく」という不安に対し、ドメイン知識とシミュレーションで足場を固める、という方向性は、マイクロソフトのブースで見たオントロジー×デジタルツインの考え方とも通じるものがありました。

3. ソフトウェアのライフサイクルまでPLMに取り込みにきている

Cyber Resilience Actという規制を背景に、SBOM・Git連携・トレーサビリティでソフトウェアのセキュリティを設計段階から管理する。そのためにALMのTuleapを買収した、という一連の流れは、製造業の関心がハードウェア単体から「ソフトウェア定義型製品」へと移っていることを、はっきり感じさせるものでした。

総じて、ダッソーシステムズがハノーバーメッセ2026で見せていたのは、設計・製造・運用・ソフトウェアを一つの仮想ツインの上で束ねる、製造業の統合プラットフォームの姿。エンジニアリングチェーンの上流から下流までを一気通貫でカバーしようとするその射程の広さ、さすがフランスを代表する企業だと感じました。

それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。

参考資料

ダッソーシステムズ 主要ソリューション

今回のツアーに関連する発表

規制・制度


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