新卒研修で対話型鑑賞とbeの肩書きをやってみた

新卒研修でワークショップを実施しました。この記事では長南担当の対話型鑑賞、beの肩書き、マインドフルリスニング、ブラインドトークについてご紹介します。
2023.04.20

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CX事業本部で組織開発/ワークショップデザイナーをしている長南です。全社人事であるES部より依頼をいただき、新卒研修でワークショップを実施しました。

講師は同じくCX事業本部のガオリュウさんと長南の2名で実施していて、ガオリュウさんと長南それぞれで担当ワークショップを分けて進めました。

ガオリュウさんサイドのブログ:[新人研修レポート]紙飛行機ワークショップとIKIGAIマップとロールセッションを実施しました

この記事では長南担当の以下のアクティビティについてご紹介しています。

  • beの肩書き:「beの肩書き」をつくるワークショップは、普段の仕事の肩書きではなく、もっと深いところにある自分らしい肩書き=「beの肩書き」をじっくり探求します。
  • マインドフルリスニング:呼吸の瞑想の応用で、話を聴くことに集中するワーク。Google社内研修で人気なSearch Inside Yourselfコアプログラムで扱われています。
  • ブラインドトーク:絵が見えない人に、絵を見ている人が作品を言葉で伝えるペアワーク。京都芸術大学 アートコミュニケーション研究センター開発のアクティビティ。
  • 対話型鑑賞:対話を通してアート作品の鑑賞を深めていくワークショップです。長南が学んでいる京都芸術大学 アートコミュニケーション研究センターのACOPをベースとしています。

ワークショップ風景

ワークショップ風景:beの肩書き

読み手の想定

  • 対話型鑑賞の実践者で、新卒研修など社内で対話型鑑賞の実践をしてみたい方
  • 社内でソフトスキルに対応する研修やワークショップを検討している方
  • HavingとDoingだけでなく、Beingの必要性を社内で伝えていきたいと考えている方
  • 社内研修でワークショップ実践を考えているWSD修了生

なぜ新卒研修で対話型鑑賞とbeの肩書きをやったのか?

ES部から新卒研修でのワークショップを依頼いただいた時に、担当のヨコウチさんから「ワークショップで身につけたい能力」の要望をいただきました。

  • ワークショップで身につけたい能力(主にソフトスキル)
    • セルフリーダーシップ:困難な課題にも自分から取り組み、分析して意見を出せるように自分で自分を導くスキル
    • セルフマネジメント:目標を決めて手段や方法を考え、目標を達成できるように自分を管理するスキル
    • ジョブ・クラフティング:自分自身の意思で仕事を再定義し、自分らしさや新しい視点を取り込んでいくスキル

この「ワークショップで身につけたい能力」に対応するワークショップ候補をガオリュウさんと出し合い、以下のワークに取り組むこととしました。

ワーク一覧

ワークショップの担当は、対象ワークショップの実施経験をベースに、以下のように役割分担をしました。

ガオリュウさん:紙飛行機、ikigaiマップ、ロールセッション

長南:beの肩書き、マインドフルリスニング、ブラインドトーク、対話型鑑賞

  • beの肩書きは、青学WSD同期チームで一度実施したことがありました。
  • マインドフルリスニングは、Search Inside Yourselfコアプログラムで体験したことがあり、以前CX合宿でも扱ったことがありました。
  • ブラインドトークは、京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センターでつくられたワークショップ。対話型鑑賞講座で触れたことがあり、自分でも何度か実施したことがあります。
  • 対話型鑑賞は、京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センターで、2018年度と2021年度の対話型鑑賞(ACOP)講座に参加していて、出会ってから5年経ちます。長南が一番長く実践を通して学んでいるワークショップで、最近だとZoomメタバース上で実践しています。

どうやって対話型鑑賞を進めたのか?

対話型鑑賞パート(オンライン)は、以下のようなアクティビティの流れで組み立てました。

  1. チェックイン:複数のアート作品の中からひとつ作品を選び、作品を選んだ理由を話す。
  2. マインドフルリスニング:集中して聴くトレーニング
    1. 呼吸の瞑想で、呼吸に集中するトレーニングをする
    2. 話を聞く(普段どおりの聞くを実践)
    3. 呼吸の瞑想の応用で、話を聴くことに集中する
    4. プチレクチャーで、マインドフルネスとモンキーマインドの違い、聞く(内的傾聴)と聴く(集中傾聴)の違いに触れる
  3. ブラインドトーク:絵が見えない人に、絵を見ている人が作品を言葉で伝えるペアワーク
    1. ペアをつくり、AさんとBさんを決める
    2. ブラインドトーク 1回目(作品A)/ブレイクアウト:聴き役Aさん、みて話す役Bさん。BさんはAさんに絵を言葉で伝える。しばらくしたらAさんも絵を見て、ふたりでふりかえり。
    3. メインルームでふりかえりのシェア
    4. ブラインドトーク 2回目(作品B)/ブレイクアウト:聴き役Bさん、みて話す役Aさん。AさんはBさんに絵を言葉で伝える。しばらくしたらBさんも絵を見て、ふたりでふりかえり。
    5. メインルームでふりかえりのシェア
  4. 対話型鑑賞:対話を通してアート作品の鑑賞を深めていく

作品選びのチェックインで視点や解釈の違いに触れる、集中して聴くことをトレーニングして、ブラインドトークでは見ているものを言葉で伝える難しさに触れ、準備が整ったところで対話型鑑賞に入っていく。

作品選びのチェックインでは、ぼくが対話型鑑賞で使ったことのある作品群を使っていましたが、まさかの一番人気がハマスホイ。二番目に人気だったのはキース・ヘリングでした。

マインドフルリスニングは、「話し手を見ていた方が、聴くことに集中できる。目を瞑っていると、周囲の雑音が気になり気が散ってしまう。」という声が出ていました。メタ認知がすごい。

 

ブラインドトークでは、以下のような声が出ていました。

  • ブラインドトーク1回目:「描かれている物のディテールはイメージ通りだったけど、キャンバスに対する物のサイズがイメージと異なった」
  • ブラインドトーク2回目:「描かれている複数の物の配置はイメージどおりだったけど、一つ一つの物のサイズがイメージと異なった」

こちらもふりかえりを通して、聴いてイメージしたものの実物のギャップを言語化できているのがすごい。

 

対話型鑑賞は、プログラムの時間が押してしまって短めで20分ほど。作品は2021年度の対話型鑑賞講座で、課題作品として使っていたこちらを使いました。

作品選定の意図は、平易でみているものが言葉にしやすい、理解可能な意味内容、チャレンジを阻むコンフォートゾーンをテーマに含んでいる、という点を考慮していました。またファシリテーター(ナビゲーター)である長南が、何度も実践することを通してディスクリプション(鑑賞を通して起きることを言語化)を深めている作品のため、質の高い体験を提供できる点も考慮しました。

鑑賞中は、以下のような声が出ていました。

  • 「全体的に色のトーンが暗めで、暗い印象がある」
  • 「食べ物が沢山あって、贅沢で恵まれているようなポジティブなイメージもある」
  • 「だらけているように感じる。」「どこからそう思いましたか?」「大股開きや、寝転んでいる、脱力しているといったところから。」
  • 「よくわからないものが描かれている。」「どこからそう思いましたか?」「ナイフの刺さった豚、足の生えた卵、腕の切れた人」
  • 「欠けているものが描かれている。」「どこからそう思いましたか?」「背中の欠けた豚、割れた卵、腕の切れた人、欠けたチーズ。」
  • 「いつでも食べられるものが自動的に提供される」「どこからそう思いましたか?」「焼かれた豚や鳥がすぐ近くにあり、飲み物も上部のテーブルから落ちてきそう」
  • 「役割を放棄している。」「どこからそう思いましたか?」「武器を扱うような役割を持っている人が、仕事道具である武器や防具を手放している。」

美的発達段階 第1段階の特徴である主観的解釈のみが発言される状況が続きましたが、「どこからそう思いましたか?」の問いかけで客観的事実をしっかり捉えることができていました。

鑑賞の支援としては、ポインティング(指差し)、パラフレーズ(言い換え)、リンキング(接続)、フレーミング(枠付)を、鑑賞が深まるよう適宜実施。

鑑賞後に、コンフォートゾーンの説明をして、鑑賞を踏まえて対話することを考えていましたが、時間が足りず・・・。

 

対話型鑑賞(ACOP)では以下のような学習効果が得られると言われています。(京都芸術大学 アートコミュニケーション研究センター 福のり子先生の講義より)

  • 知的探究心が刺激される
  • 集中力と目的意識を持った観察力
  • 正解のない問いに取り組む力=問題解決の能力
  • 創造的解釈=奥深い意味を読み解く
  • 体系的に論理的にみる
  • 言語能力=より適切な言葉を、記憶の中から呼び起こし、それらをより適切に組み立てるという作業
  • コミュニケーションの基礎
  • 多様性の受容=他者と生きていくための基礎
  • 協働で行う作品解釈・再解釈
  • 自己対話力=メタ認知能力

経験や価値観の違いから学び合う(正統的周辺参加)、一人では辿り着けないところにみんなと一緒だから辿りつける(発達の最近接領域)。

ワークショップらしい学びを体験してもらうには、対話型鑑賞はいい方法かなと思います。

どうやってbeの肩書きを進めたのか?

ワークショップ風景

ユーダイモニア・インタビューをしているところ

beの肩書きは、青学WSD同期でチームをつくり以前やったことがあるのですが、再現性の高いプログラムが残っておらず・・・。

勉強家さんが公開してくれているプログラムをベースに組み立てました。

アクティビティの流れは以下のような形で。プログラムが長かったので、前編と後編で分けて実施しました。

  1. 1日目 beの肩書き 前編/オフライン
    1. プチレクチャーで、beの肩書きや、Having(所有・所属)、Doing(行動・行為)、Being(存在・あり方)を。
    2. 偏愛マップづくり
    3. 「ユーダイモニア:ヘドニア」の仕分け/共有
      1. 偏愛マップに書き出した項目の中で、ユーダイモニアだと思うものに星印をつける
      2. ユーダイモニア=個人的充足感。自分にぴったりである、向いていると思う。「できれば、こんな時間が増えたらいいな」と思う。「この人生で、これはやっておきたいな」と思う。
      3. ヘドニア=快楽的、受動的、外発的
    4. ユーダイモニア・インタビュー/記入
      1. 話し手、聴き手、メモ係に役割を分けて、3人組で進める
      2. 聴き手は、ユーダイモニア・インタビュー・シートに沿ってインタビューを進める
      3. メモ係は、ユーダイモニア・インタビュー・シートにメモを記録する
  2. 2日目 beの肩書き 後編/オンライン
    1. ユーダイモニア・インタビュー共有
    2. 「肩書き」をプレゼントする
      1. ユーダイモニア・インタビューやメモを参考に、グループワークをご一緒した2名および自分に、beの肩書きをプレゼントする
    3. きょうのマウナケア・スケッチ →時間不足でスコープアウト

beの肩書きで、一番印象に残っているのは「ユーダイモニア・インタビュー」と「ユーダイモニア・インタビュー共有」でしょうか。

話し手としてしっかり自己開示をする、聞き手として相手に興味を持って話を聴く。新卒同期である程度関係性ができているところもあると思いますが、クラスメソッド社員の特徴にも通じるなと思いながら見ていました。

2日目 beの肩書き 後編のユーダイモニア・インタビュー共有では、午前中にマインドフルリスニングをしていたこともあり、より聴くことに集中していた様子が伺えました。

思い返すと、「ユーダイモニア・インタビュー」「ikigaiマップ」「マインドフルリスニング」「ブラインドトーク」「対話型鑑賞」「ユーダイモニア・インタビュー共有」と、聴くワークが沢山含まれていることにはあとで気づきました。

対話型鑑賞とbeの肩書きをやってみて、どうだったか?

ワークショップ風景

対話型鑑賞パートについては、マインドフルリスニングに早めに触れてもらえてよかったです。地頭のいいエンジニアは、内的傾聴にとらわれがちな傾向があると思うので、早めに集中傾聴のような聴くことのトレーニングに触れられると、会議など日常の中での聴く体験が変化していきます。ブラインドトークや対話型鑑賞のようなメタ認知やクリティカルシンキングが求められるワークでは、他のワークでスポットライトが当たらなかった人にスポットライトを当てられる機会がつくれます。

beの肩書きパートについては、興味関心や価値観をシェアすることで、自己開示の機会になっていたんじゃないかと思います。聴くワークが多かったことで、聴くことの価値、聴いてもらうことの価値にも触れてもらえたのではないかと思います。

おまけ

思いつきではありましたが、コルトハーヘンのリフレクションを参考に、各パートのメインアクティビティ後のリフレクションは以下のテーマ設定をしていました。

  • 1日目 午前:Doing(行為) ガオリュウさん担当
  • 1日目 午後:Thinking(考える) 長南担当
  • 2日目 午前:Feeling(感じる) 長南担当
  • 2日目 午後:Wanting(望む) ガオリュウさん担当

リフレクションシート

1日目 午後のリフレクションシート

考えるリフレクションは、各設問に4段階評価で回答してもらって、それをシェアする形でリフレクションを進める。

リフレクションシート

2日目 午前のリフレクション

感じるリフレクションは、問いの回答を0点から100点で考えて、ジェスチャーで点数を表現してもらってました。(思考を意識し過ぎないように)