
議事録は、溜めても資産にならない──情報の分断を埋めるために、案件単位で引ける検索を半日で作った
議事録は、書いた人ごとに散らばる。発行者単位で溜まる限り、量が増えるほど探せなくなる。情報を資産に変えるのに必要なのは、溜め方ではなく寄せ先の変更だった。
社内のAI活用コンテストに出す前提で、会議の議事録を案件単位で引ける検索を半日で作った。同僚3人に触ってもらったところ、刺さった機能と、まったく伝わらなかった言葉が、きれいに分かれた。その記録を残す。
なぜ議事録は、溜めるほど探せなくなるのか
議事録が「会議の記録」として発行者単位に保存され、「案件の記録」として案件単位に寄っていないからだ。
会議は参加者と主催者の数だけ増える。一方で案件は、何回会議をやっても1つしかない。増えていくのは前者で、あとから探したいのは後者である。この不一致が埋まらないまま量が増えると、検索は「どこかにあるはず」を確認する作業に変わる。
情報の分断は、フォルダ構成の問題ではない。少なくとも三種類ある。
- 発行者の分断:誰が書いたかで置き場所が変わる。同じ案件の議事録が、書いた人の数だけ別の場所にある。
- 表記の分断:社名・案件名・略称が揺れる。「A商事」「A商事様」「Aさん案件」は、人間には同じで、検索には別物だ。
- 時間の分断:前回決まったことに、今回の議事録が接続していない。各回は残っているが、決定の系列が残っていない。
三つとも、議事録の書き方を工夫すれば直るという性質のものではない。書く側は毎回ちゃんと書いている。壊れているのは、書いたものが集まる先だ。
画像①:左=発行者ごとに散らばった議事録(人の数だけ縦に列が立っている)/右=同じ議事録が案件単位の1本に寄っている図。強調はアンバー1箇所(「寄せ先」の矢印)のみ。
何を作ったか
やったことは、寄せ先を作ることに絞った。
- 自動生成された会議メモを集め、案件単位で引けるようにした
- 社名・案件名の表記揺れを正規化して、同じものが同じ名前で引けるようにした
- その案件で「誰が結び目になっているか」が見えるようにした
作らなかったものも書いておく。要約の精度を上げる工夫はしていない。議事録の書式も統一していない。書く側の運用は一切変えていない。変えたのは、書かれたものが集まる単位だけである。
実装の詳細は割愛する。ここで効いたのは技術の難しさではなく、寄せ先を「会議」から「案件」に変えたという一点だからだ。



触ってもらって分かったこと
同僚3人に、100文字以内で感想をもらった。以下は要点である。
- 「検索一発で"あの案件がどうなっているか"が分かるのは便利。表記揺れも直っていくので、使うほど楽になりそう。ただし初見では使い方・見方が分からない」
- 「顧客数が多くなると把握が煩雑になる。タスク整理の観点でも、自分の案件管理で使いたい。"誰が結び目か"が一番良い」
- 「散らばる議事録を案件単位に寄せる着眼には強く共感した。一方で、探す時間が何分から何分になるのかという定量が読み取りづらい」
刺さったのは機能だった。伝わらなかったのは言葉だった。
私はこの仕組みを説明するとき、案件ごとに一本化された記録を「案件の正典」と呼んでいた。自分の中では正確な言葉だ。しかし3人のうち1人からは、そこが一番分からないと明示的に返ってきた。機能の説明では前に進み、命名では止まったのである。
言っても伝わらないのは、聞き手の理解力の問題ではない。渡す側の翻訳が足りていない。これは以前別の記事で書いたことの、自分に対する再現だった。作ったものが良ければ言葉は要らない、ということはない。むしろ、良いものほど言葉で止まる。
【要実測・埋めるか行ごと削除】寄せた議事録は◯件。「あの案件どうなってる?」を確認するまでの時間は、平均◯分から◯分になった。
在庫と資産を分けるもの
今回の3人の反応から、情報が「資産」になる条件は次の三つだと整理した。
- 寄せ先が、業務の単位と一致している。会議単位ではなく案件単位。組織が意思決定する単位に合わせる。
- 同じものが、同じ名前で引ける。表記揺れが残っている限り、検索は当たりくじを引く作業になる。
- 次の判断に使える形で出てくる。何が決まったか、誰が結び目か。要約が読めることと、次の一手が決められることは別だ。
三つを満たさないものは、資産ではなく在庫である。置いてあるが、引き出せない。棚卸しの対象にはなるが、値段はつかない。
情報をつなげて価値を創る、という言い方をよく見る。つなげる相手は文書ではない。判断だ。前回の決定と今回の議題がつながって、初めて価値が出る。
ここから先
ただし、ここまでで扱えているのは会議の外形にすぎない。誰が集まり、何が決まり、次に何をやるか。組織のログとして残せるのはそこまでである。
残らないのは、その決定に至った判断そのものだ。なぜその案を選び、なぜ別の案を捨てたのか。それはベテランの頭の中にあって、議事録には落ちない。文書化しても継承できないのは、この層である。私たちがghoost(ゴースト)で扱おうとしているのはそちら側で、今回作ったものはその手前、判断の土台になる情報を分断のない状態にしておく仕事に当たる。
この先の設計は社内で検証中なので、ここでは書かない。書けるようになったら、また記事にする。
よくある質問
Q. 議事録を全文検索できるようにすれば足りるのでは?
A. 足りない場面がある。全文検索は「その語が含まれる文書」を返すが、知りたいのは「この案件が今どうなっているか」だ。返ってくる単位が、知りたい単位と違う。
Q. AI議事録ツールを入れれば解決する?
A. 記録の生成は解決する。実際、今回集めた議事録も自動生成されたものだ。解決しないのは寄せ先の問題で、発行者単位に保存される構造はツールを変えても残る。
Q. 表記揺れの正規化は、AIに任せて大丈夫なのか?
A. 提案までは任せられるが、同一とみなす判断は人が持つほうがいい。別会社を同じ名前に寄せる事故は、検索できないことより高くつく。
Q. ghoostとは?
A. ベテランや"あの人"の、言語化されていない判断を、本人と一緒に引き出して組織に残す、本人の判断を再現するAIエージェントサービスだ。
まとめ
- 議事録が探せなくなるのは量のせいではなく、発行者単位に溜まって案件単位に寄っていないためだ。
- 情報が資産になる条件は三つ。業務の単位と一致/同じ名前で引ける/次の判断に使える形で出る。満たさないものは在庫である。
- 作った物は機能で伝わり、言葉で止まった。「正典」は伝わらなかった。翻訳は、作った本人の責任として残る。
「あの人がいないと、決まらない」状態をどう解くかについては、9/14のウェビナー「なぜ『あの人がいないと、決まらない』のか」でも扱う。判断そのものを組織に残す話が気になった方は、ghoostのサービスページものぞいてみてください。
参考(背景)
- Wegner, D. M. (1987) "Transactive Memory: A Contemporary Analysis of the Group Mind" ——「誰が何を知っているか」が組織の記憶を成立させるという議論。
- von Hippel, E. (1994) "Sticky Information and the Locus of Problem Solving" ——情報は移すのに費用がかかり、動かない性質を持つ。
- Hansen, M. T. (1999) "The Search-Transfer Problem" ——組織内の知識移転は「探す」と「移す」で別の障害を持つ。
- 野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』——形式知と暗黙知の変換(SECI)。
※書誌は原典を確認のうえ確定する。










