ハノーバーメッセ2026で見た製造業AIと、データ基盤の段階的な作り方

ハノーバーメッセ2026で見た製造業AIと、データ基盤の段階的な作り方

Factory Creative Camp大阪での登壇内容。ハノーバーメッセ2026で見た世界の製造業AIの最前線と、日本の現場で今すぐ始められる段階的なデータ基盤の作り方を、ロッテ浦和工場の実践事例とともに紹介します。
2026.06.08

先日、大阪で開催された製造業向けイベント「Factory Creative Camp」で、以下のタイトルで登壇してきました。

「製造業のクラウド活用最適解 〜AI, DXを加速するデータ基盤の作り方〜」

この記事では、その登壇内容をブログとしてあらためてお届けします。今回お伝えするのは、教科書的なデータ活用の理論ではありません。2026年4月にハノーバーメッセ2026の現地で見てきたこと、そして顧客と一緒に試行錯誤してきた経験をベースにした、私自身の主観です。世界の最前線で起きていることと、日本の製造現場で今すぐ始められる現実的な一歩を、地続きでつないでお話しします。

登壇概要

  • イベント名: ファクトリークリエイティブキャンプ 〜生成AIで現場/経営課題を解決する方法を学ぶ1泊2日〜
  • 開催日: 2026年6月4日(木)〜6月5日(金)
  • 会場: クロスウェーブ梅田(大阪府大阪市北区神山町1-12)

イベント公式ページ
https://hs.classmethod.jp/260604-factory-creative-camp

登壇資料

イントロダクション

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普段は製造ビジネステクノロジー部のスマートファクトリーチームで、製造業向けのAI・クラウドソリューションの企画と導入支援をやっている濱田孝治(ハマコー)です。今日の話は、以下の3部構成で進めていきます。

  • ハノーバーメッセ2026に見る世界の最新潮流
  • 段階的なデータ基盤の作り方
  • 実践事例 株式会社ロッテ 浦和工場

まずは世界の潮流から見ていきましょう。

ハノーバーメッセ2026に見る世界の最新潮流

ハノーバーメッセをご存知でしょうか。ドイツ・ハノーバーで毎年開催される、製造業における世界最大級の産業見本市です。今年は4月20日から24日の5日間、同僚の田中と一緒に現地へ行ってきました。

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世界50カ国以上から集まり、来場者は約13万人。規模の大きさもさることながら、今年いちばんの特徴は中心テーマが完全に「Industrial AI(産業AI)」へ振り切れていたことでした。昨年もかなりAIの色は全体的に濃くなっていたのですが、今年は会場全体がAI一色だった、というのが現地での率直な感覚です。

製造業の森羅万象が集まる場所、とでも言いましょうか。オープニングセレモニーの政治色の強さ、世界を代表するプレイヤーの超大規模な展示、各国が国の代表として構える展示、そして標準化団体(Manufacturing-X、OPC Foundation、Open Data Space)の展示規模。どれをとっても、製造業の今と未来がそのまま凝縮されていました。

ここからは、現地で見た製造業AIの最前線を、以下に分けてお伝えしていきます。

  • Opening Ceremony
  • AWS
  • Microsoft
  • Siemens
  • SAP
  • OPC Foundation

Opening Ceremony

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ハノーバーメッセは、開幕前夜のオープニングセレモニーからして規格外でした。ドイツ連邦共和国首相やブラジル連邦共和国大統領、Accenture会長兼CEOなど、政治・経済のトップが顔をそろえます。

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写真は、インダストリー4.0の提唱者であるWolfgang Wahlster氏と談話させていただいた時の一枚。

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セレモニーで語られたメッセージは、産業AIに関するEU規制緩和の推進、「Made for Germany」を掲げた8,000億ユーロの巨額投資、そして事業の「Reinvention(再発明)」とグローバル連携の強化でした。製造業を国家戦略として位置づける本気度が、会場の空気からも伝わってきます。

Opening Ceremonyの詳細は、別記事で詳しくレポートしています。

https://dev.classmethod.jp/articles/hm26-pressday-opening/

AWS

AWSのブースは「Built for Industrial AI」を掲げた1,400平方メートルの大型ブースで、25のパートナーと9つのAmazonキオスクが並び、会期中に50以上のセッションが連続開催されていました。

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なかでも目を引いたのが、ブース中央に設置された実際に動く製造ラインです。

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ドリンクコースターを作る体験型デモで、AMR(自律移動ロボット)から協働ロボット、レーザー彫刻機、AI品質検査、ヒューマノイドまでが完全に自律したフローでつながっていました。これらを支えるのが、データ取り込みからモデル学習、シミュレーション、エッジ運用、Agentic AIまでをカバーする5層のスタックです。

特に印象的だったのは、中央のAIエージェントがMCP(Model Context Protocol)経由でMES・MOM・PDM・在庫管理といった既存システムに疎結合でつながる構成でした。既存システムを「置き換える」のではなく、AIエージェントで「上から束ねる」というアプローチです。これは後ほど触れる日本の製造現場へのヒントにもなります。

AWSブースの詳細は、別記事で詳しくレポートしています。

https://dev.classmethod.jp/articles/hm26-aws/

Microsoft

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Microsoftのブースのテーマは「産業インテリジェンスの解放」。Fabric IQ・Work IQ・Foundry IQという3層の基盤で、データ層・現場層・AI開発層を貫いていました。

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象徴的だったのが、ボトリング工程のチェンジオーバー(段取り替え)を従来の4時間から30分へ短縮したKronesの事例です。

裏側ではAnsysのシミュレーションをNVIDIAのGPUで実行し、Copilotがシミュレータを呼び出して機械設定を自動提案しています。情報AI・物理AI・OTという別々だった「面」を、AIが一気通貫で動かす世界観が形になっていました。

Siemens

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SiemensはAIが「エンジニアリングチェーン」を貫通する姿を見せていました。Teamcenter(PLM)とTIA Portal、Industrial Copilotを組み合わせ、設計から制御プログラミングまでをAIが支援します。バーチャルコミッショニングで物理製造前に9割のバグを検出する、という話も出ていました。

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面白かったのが「ポップアップファクトリー」の展示です。ワールドカップ会場でジュース需要が急増したとき、既存工場から配送するか、スタジアム近くにコンテナ工場を立てるか。AIが需要を予測し、サプライチェーンスイートでコストを比較し、メタバースとデジタルツインで設備配置まで確認する、という内容でした。

Innovation Hubでは、来場者の足型をその場でスキャンし、エージェンティックAIがCADソフトNXに「ソールを設計して」と指示、個別最適なソール形状を自動生成してそのまま製造工程へ流す、という実演もありました。Siemensが示す「自律型工場」の答えが、エージェンティックAIにあることがよく伝わる展示でした。

Siemensブースの詳細は、別記事で詳しくレポートしています。

https://dev.classmethod.jp/articles/hm26-siemens/

SAP

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SAPのテーマは「Trusted Orchestration. Smarter Execution.」。ジンジャーショットを題材に、複数の仮想企業をまたぐシナリオを、ブースを左から右へ歩くとサプライチェーンの上流から下流をたどれる動線で見せていました。

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中核にあったのが、Jouleと40以上のエージェントによるマルチエージェント基盤です。原材料の輸送遅延で経営インパクト1,800万ドルというシナリオに対して、在庫調整・サプライヤー探索・トレードオフ分析の各エージェントが連携し、プランA/B/Cを生成して担当者へタスクを配信する。さらにDMG MORIのCNCを使い、企業を越えてスペアパーツを削り出すデモまでありました。1社で完結させるのではなく、エージェントが企業をまたいでオーケストレーションする世界です。

SAPブースの詳細は、別記事で詳しくレポートしています。

https://dev.classmethod.jp/articles/hm26-sap/

OPC Foundation

そしてもう一つ、現地で強く感じたテーマがあります。巨大ベンダーの展示の根底に、共通して横たわっていた規格の存在感です。

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それがOPC UAです。「製造業の機器同士・機器とITシステムを、メーカーを問わずに繋ぐためのオープンな通信規格」で、各社のブースで「OPC UA対応」が共通の前提になっていました。認証・暗号化・証明書管理を標準仕様で扱えることから、EU CRA(Cyber Resilience Act)時代の欧州市場では必須の選択肢になりつつあります。

通信規格としてだけでなく、データを「情報モデル」として標準化することで生成AIがデータの意味を理解できる、という点も重要です。FX(フラット通信)やSafety(機能安全)、Digital Product Passportへの対応まで、あらゆる領域がOPC UAの傘の下に集まりつつありました。

OPC UAの深掘りは、こちらの記事で詳しく解説しています。

https://dev.classmethod.jp/articles/hm26-opc-ua/

あらためて俯瞰する

5日間を通して見えてきたのは、世界を代表する巨大プレイヤーが、製造業のあらゆる分野でのAI実践活用に本気で向き合い始めた、という事実でした。

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製造業を俯瞰すると、エンジニアリングチェーン・サプライチェーン・プロダクションチェーンという大きな流れがあります(図はマニュファクチャリングチェーンの全体像。出典: 日本能率協会コンサルティング)。各社で濃淡はありますが、展示内容にはほぼ全てこれらの領域が含まれ、その全てがAIを基盤として語られていました。

そして共通していたのが、自社だけでは出来ない部分は積極的にパートナーの機器やソフトウェアと連携し、その統合の核にAIエージェントを据えるという姿勢です。世界を代表する巨大ベンダーが、同じ未来を向き始めた、というのが現地での私の結論です。

段階的なデータ基盤の作り方

ここまで巨大企業の大きな話ばかりをしてきましたが、こう感じた方も多いのではないでしょうか。「我々はどこから取り組むのが良いのか?」と。

結論めいたものを先に言います。私が考える「製造業データ活用の最適解」とは、高価な製品を一式そろえることでも、一気に全社展開することでもありません。現場価値を起点に、段階的にAI Readyなデータ基盤を育てるプロセスです。

ここで言うAI Readyとは、次の3要素がすべて揃った状態を指します。

  • アクセス可能(Accessible): サイロ化されておらず、必要なときにアクセスできる
  • 統合済み(Integrated): 異なるソースのデータが関連付けられている
  • 品質担保(Quality): 正確性・鮮度が担保され、メタデータが整備されている

大事なのは、これは高価な専用基盤を意味しないということです。整備された業務フローで管理されたExcelであっても、この3要素を満たせば立派なAI Readyなデータソースになりえます。

データ基盤の構築は、次の3フェーズで段階的に進めるのが現実的です。

  • Phase 1(可視化): データを集めて「見える」状態にし、現場の困りごとを解消して小さな成功体験を作る
  • Phase 2(統合・分析): 複数ソースを関連付けて分析し、全体最適や相関を発見する
  • Phase 3(新サービス創出・AI活用): 予知保全・品質予測・ナレッジ活用など、外向きの価値を生む

経済産業省の「DX推進指標」の成熟度レベル(0〜5)でいえば、多くの企業がレベル1〜2で停滞しています。まずは自社の現在地を把握し、次の1段を明確にすることが出発点になります。

では、どこから着手すべきか。私は次の4つの判断軸で考えることをおすすめしています。課題の緊急度(今いちばん現場が困っているのはどこか)、データの取得しやすさ(すでにデジタル化されているデータはあるか)、効果の見えやすさ(成果を定量的に示しやすいか)、経営インパクト(コスト削減・売上向上に直結するか)の4つです。設備稼働データから可視化して予知保全へ、品質データから不良率改善へ、といった着手パターンが典型です。

ここで気をつけたいのが、手段の目的化です。AI Readyなデータ基盤を作ること自体は、あくまで手段にすぎません。最初から大きなROIを求めず、小さな成功体験を積み重ねること。そして現場のフィードバックこそが、手段の目的化を防ぐ羅針盤になります。スコープを1ライン・1設備に絞り、早い段階で現場に可視化を見せ、「使える/ここが足りない」の声を集めて次の打ち手に反映する。このサイクルが効きます。

逆に、最初から全社展開しようとして複雑さに頓挫する、ROIを先に求めすぎて投資判断できず停滞する、IT部門だけで進めて現場の協力が得られない、といった失敗は、どれも現場との接続が断たれているときに起こります。

ロッテ浦和工場における事例

ここからは、これらの考え方を実際に形にした事例として、株式会社ロッテ様の浦和工場での取り組みをご紹介します。

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浦和工場では、ガーナチョコレートの1ラインから取り組みをスタートしました。

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システム構成はシンプルです。PLC Data to CloudでPLCデータをAWS上に収集し、データベースを構築してGrafanaで数十個のダッシュボードを作成。さらに紙帳票をデジタル化し(タイムライン型のUIを新規設計)、アジャイル開発で現場要望を迅速に反映していきました。

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生産設備のダッシュボードでは、OEE(総合設備効率)やサイクルタイム、時間損失の内訳といった設備監視のレポートに加え、保管温度や歩留まり、異物検知回数といった品質管理のパネルまで提供しています。

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得られた成果として、紙帳票の約50%を電子化、設備1台単位での生産性評価が可能になり、温度異常を瞬時に検知してスマホへオンコールするアラーム機能も実現しました。結果として、現場作業者が複数設備の対応や別業務に時間を配分できるようになっています。

成功要因は4つに整理できます。ガーナチョコレート1ラインから「小さく始める」、IT部門と工場担当者・オペレーターでスクラムチームを組む「現場との協働」、ノウハウ習得を並行で進める「内製化を見据える」、そしてプロダクトオーナーのもとで不確実性を許容し完璧を求めない「迅速な意思決定」。先ほどお話しした段階的なアプローチが、そのまま形になっています。

AI活用への未来展望

そしてこの取り組みは、ミニマムな第一歩でありながら、AI活用への明確な方向性を見せ始めています。

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すでにデータ分析用のAIチャットボットは実装済みです。

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生産設備ダッシュボードに格納された全データを対象に、AIチャットボットによる分析機能を提供しています。Grafana MCP Serverや既存APIのMCP化といったツールの充実により、応答の精度が上がると同時に、実装の難易度が劇的に下がってきました。データさえ整っていれば、AI活用の実装は驚くほど楽になってきているというのが、現場での実感です。冒頭で触れたハノーバーメッセでの「AIエージェントで既存システムを束ねる」潮流が、日本の現場でも地続きで起こり始めています。

まとめ 〜小さく始めて大きく育てる〜

最後に、皆さんへのメッセージをお伝えします。登壇では、こんな質問をいただきました。

Q: 日本の製造業は全体最適を意識せず各部門の個別最適だから、結局無駄になると言われている。ものづくり白書にもそう書いてある。やはりトップダウンでの改革が絶対に必要なのか?

これに対する私の答えはこうです。全体最適だろうが個別最適だろうが、無駄になるものは単に「現場の課題を解決していない」からです。トップダウンの全体最適はハードルも高くなります。そこにこだわらなくても良いのではないでしょうか。

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スコープを絞り、現場に触ってもらい、フィードバックを得て、方向を修正し、横展開する。この「小さく始めて大きく育てる」サイクルを回すこと。そして、導入や修正のコストが高いもの(時間もお金もかかり、都度ベンダー見積もりが必要で、自社で対応できないもの)は、将来的に足かせになる可能性があるので注意が必要です。プロジェクトが大きくなればなるほど、この方向修正は難しくなります。

個別最適だろうがなんだろうが、それが本当に現場の役に立つものであれば、ミニマムでも良いのでどんどん導入し、修正を繰り返していく。それが未来のAI Readyな製造業を作っていくと、私は感じています。

世界の最前線では巨大プレイヤーがAIで製造業の全体像を描き始めていますが、その潮流に乗るための第一歩は、決して大げさなものではありません。皆さんの現場の小さな困りごとから、ぜひ始めてみてください。

それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。

参考資料


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