【書評】なぜかミスをしない人の思考法 #ビジネス書を楽しもう

2020.12.09

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はじめに

せーのでございます。

誰にも知らせずまったり始めている「ビジネス書」アドベントカレンダー、本日は9日目です。

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本日は中尾政之著「なぜかミスをしない人の思考法」です。

正直、私はこの手の仕事術が一番苦手分野です。人間の行動に「攻め」と「守り」があるとしたら、この本は「守り方」を教えてくれる本で、攻めることが楽しいタイプの私のような人には苦痛ですらあります。

しかし、だからこそ、ここに書かれているようなポイントに普段から注意しておくことで、いざ自分が攻めたい時に信頼を得ることが出来るのだと思います。
貯金をしてから投資をする、と言いますか、ごはんを食べてからお菓子を食べる、と言いますか。

ということで、今日は「ミスをなくす方法」をご紹介します。

愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ

人間は必ずミス、失敗をする動物です。ですが、「失敗する」ということにはいくつかの「予兆」がある、とこの本は言います。
その代表的な法則が「1:29:300の法則」通称「ハインリッヒの法則」です。

これは「1件の重大災害の裏には29件のかすり傷程度の軽災害があり、さらにその裏にはヒヤリとしたり、ハッとした300件の体験がある」というものです。つまり、ミスをする前にかならず軽い不具合や失敗の傾向が現れているのです。ヒヤリハットって、よく教習所で免許更新の時に聞きましたね。
この小さい不具合を見つけて注視することができるかどうか、がミスをしないような動き方のベースとなるものです。

この考え方の面白い所は、小さいヒヤリハットを経験するのは自分じゃなくてもいい、というところです。
ミスにつながる小さな不具合を確認するには

  • ヒヤリハットを自分が1件体験する
  • 回りを見渡し、似たような例がないか調べる
  • 他にもあれば、それをミスの予兆として共通点を見つけて改善プランを練る
  • 知識化して、自分が似たような体験をする時は予め教訓とする

という方法でミスを未然に防ぎましょう、というのがこの本のテーマとなります。

失敗は情報であり、知識であり、知恵である

この本には著者が体験した失敗にまつわる色々な例や実験が載っています。その中でこんな実験があります。

90名のエンジニアを集めて、今、自分に降り掛かってきそうなリスクを書いてもらいます。
そして、インターネットに載っている失敗データを他山の石として参考にすると、なんと7割のリスクに対して有効な対応策が導け、予防できるのだそうです。

つまりリスクの7割は既に誰かが経験しているわけです。そのナレッジベースを利用すれば予め失敗を予知することは可能なのです。
ここでよくあるのが、小さいこととそのリスクを呑み込んでしまうことです。「後でも出来る」「どうせみんなも気づいてる」と思い込んで「誰かがやるだろう」と思っていること、ありますよね。それは、誰もやらないのです。

人のせいにしない人はミスが少ない

失敗は、自分の失敗でも人の失敗でも、気分のいいものではありません。

ですが、ここでその失敗を「自分ごと」とするか「他人事」とするかで、その後のミスする確率に大きな差が出るのだそうです。

例えば自分が仕事でなにか失敗したら、上司に報告しなければいけません。その場合「悪い情報こそ速く報告すれば回避できる確率があがる」のです。失敗は隠すと大きくなります。ビジネスで大事なのは「情報」なので、情報はいち早く、とくに気乗りしない悪い報告ほど重要度が高いと思っていち早く共有することが肝心、とこの本は言います。

一方他人の失敗を見た時、人は大きく2つの対応に分かれるのだそうです。

  • ああならないように注意しよう
  • あれは運が悪かったからだ。私はああはならない

つまり人の失敗を知識化、教訓化することができないと、いつか自分も同じ失敗を繰り返すわけです。なにか問題が起こった時に、誰が悪いか考えるよりまず自分が悪い、と考えると対応が早くなります。対応が速いと回復やより悪くなる事態も次善の手は打てます。大きなミスを起こさないためにはあらゆる問題を「自分ごと」とする姿勢が大事なんですね。

ミスの主な原因は「無知」「無視」「過信」

著者の研究している「失敗学」によると、失敗をする原因となる「失敗の3悪人」というものがあるそうです。

  • 無知: ミスを防ぐためのルールや対策があることを知らない
  • 無視: 面倒がるなどして基本ルールを無視する
  • 過信: 「自分に限って危険な目には遭わない」と思い込む

失敗のおよそ6割はこの3つが原因なのだそうです。「無知」を防ぐには、普段から軽い不具合や小さなミスが起きた際に、必ず類似例を探し、共通化して知識化することです。「無視」を防ぐには、それをしないと動けないような「仕組み」を作ることが有効です。「安全のためにシートベルトを締めましょう」ではなく、シートベルトを締めないと動かない車を作る、という発想です。
最後に「過信」ですが、これは通常ではなかなか気づけません。そう思い込んでいるのですから。ですので、どんな時に人は「思い込む」のか、というパターンをご紹介しますので、こちらを参考に、今自分は「過信」していないか振り返るようにしてみてください。

人任せにする

交通事故を現象させるために、道路にセンターラインを設ければ、ドライバーはきちんと守って事故は減るはず、と、その昔、警察当局が考えた事があったそうです。
道路の至るところに白や黄色のセンターラインを引いたのですが、事故は一向になくならなかったそうです。
そこで、どうせ減らないなら、とセンターラインを消してみたところ、事故が激減したそうです

つまりセンターラインを引くことで、自分はスピードを落とさなくても「対向車は注意してくれるはずだ」とお互い思い込んでいるために事故が減らなかったわけです。

このように希望的観測で対応を人任せにすると思い込みが起きやすい、とのことです。

失敗には「慣性の法則」が働く

失敗の予兆を感じても「きっと大丈夫」と思い込む原因の一つに「失敗には慣性の法則が働くから」というものがあります。
つまり、それまで順調に動いていたものを止めるのには、止まっていたものをそのままにするよりエネルギーが必要になるわけです。
それを心理的に無意識に回避しようとして「きっと大丈夫であってほしい」という心の動きが思い込みを生みます。

  • 決めたことだから
  • お金をかけたことだから
  • 上司の命令だから
  • メンツが立たないから

最初の「決めたことだから」というのは以前のブログで紹介した「一貫性の法則」という心理的効果が関わっています。くわしくはそちらのエントリーを参考にしてください。

他にもいわゆる「損切り」ができるかどうか、引き際を見極められるかどうか、が失敗を回避するには非常に重要な要素となります。
失敗は認めた時点で失敗となりますが、認めない事は失敗してないことではなく、後に大失敗するのを引き延ばしているだけに過ぎません

エジソンは「私は失敗したことがない。 ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ」という言葉を残しています。
これをたまに「失敗を認めずに進み続けることは大事」と捉える人がいますが、これもちゃんと読むと早めに撤退して別の道を進んでいる事がわかります。むしろ損切りとしては速い方だからこそ1万通りも試せるのです。

常識にしがみつく

常識は8割正しい。しかし、残りの2割は間違い。この2割にいかに速く気づくかどうかでその後の立て直しの成否が決まる。

これが当たり前だから」という理由は失敗の原因になりやすい、とこの本は言います。これを「部分的思考停止」と呼ぶそうです。
これには2点の理由があります。

  • 1点のみに注目したために周囲や全体像が見えなくなってしまう
  • あちこち目移りして全体像が見えなくなってしまう

この本では例として、秋になったので秋冬物を用意して売上が激減したデパートの話が載っています。その年は暖冬だったため、普段より3度近く平均気温が高かったそうなのですが、暦に合わせて秋物を例年通り用意してしまったがために売れなかった、というものです。これは上の理由でいうところの前者に当たります。

データはマーケットと相補的にチェックして役に立つものです。

さらにこれを汎用的に考えると、データを問題意識を持って見られるかどうか、が、慣例や常識に囚われて思い込んでしまう「過信」を防ぐカギになると言えますね。

おごるな、隠すな、我が身を正せ

結論として、この本では「失敗を予測・回避し、それを成功のために活かす人はどのような行動規範を持っているか」とテーマを定義し、その答えとして

おごるな、隠すな、我が身を正せ

というスローガンを導き出しています。

  • 失敗には必ず予兆となる小さなミスがあり、それを見つけ出すナレッジベースと共有化する
  • 失敗した時に隠すと、それが大きな失敗につながる
  • あらかじめ我が身を正せるようにシミュレーションしておくこと
  • 精神的な反省ではなく根本的に仕組みを見直す事後処理が不可欠
  • 引き際を見極め、損切りする
  • あらゆる「思い込み」を疑う

これらを一言で表したのが「おごるな、隠すな、我が身を正せ」なのですね。

まとめ

以上、今日は「なぜかミスをしない人の思考法」をご紹介しました。

ミスする前にミスしないように気をつけることが大事なのかな、と思っていたのですが、小さなミスの対処方法で大きなミスを防ぐ、というのはとても論理的で説得力があるな、と思いました。
仕事でも色々なミスや失敗があります。その時に逃げ隠れせず、堂々と対応することで逆に信頼が上がることもありますので、怖いですが、ミスにはきちんと向き合っていきたい、と襟を正しました。

それではまた明日、お会いしましょう。