組織改善のボトルネックはどこにあるのか。検知から解決の確認まで、AIと共に回す組織開発
こんにちは。組織開発室に所属し、組織開発を担当しているてぃーびーです。
組織の異変に気づいていても、日々の業務に追われて後回しにしてしまう。大切そうな気はするが、どのように扱えばいいか分からず迷っているうちに流してしまっている。その結果、ある日突然エースが辞め、チームの生産性が崩壊する。そんな組織の機会損失を、仕組みとテクノロジーでいかに未然に防ぎ、健全な成長へ繋げるか。これがこの記事のテーマです。
組織の状態を把握し、より良くしていくための手段は多岐にわたります。最も重要なのは、日常に溢れる多様なシグナルから課題の本質を捉え、対話を通じて解決し続ける組織の自浄作用を機能させることです。
この記事では、組織開発の実践を通じて培ってきた問題解決に関する思考法を5つのステップに体系化したものです。不確実な時代において、変化に強い組織をつくるための共通言語として活用してください。
課題解決サイクル全体像
組織改善は、以下の5つのフェーズをループさせることで進めます。
- 検知 : 多様なチャネルから組織の異変やギャップを捉える
- 選定 : リソースを集中させたい本質的な課題を絞り込む
- 明確化 : 抽象的な課題感を具体的な事実へ変換する
- 解決 : 理想の状態を描き、共創によって施策を実行する
- 解決の確認 : 施策の効果を確認し、学習と周知を行う

1. 検知

あらゆるシグナルから小さな予兆を逃さない
組織の異変は、定量・定性の両面から現れます。単一の指標に頼らず、複数のソースを組み合わせて組織の脈動を感じ取ることが重要です。
- 主な情報ソース :
- 定量データ : 各種サーベイのスコア、離職率、残業時間、有給取得率。
- 定性データ : 普段のやりとり、1on1での発言、テキストフィードバック、Slack上のやり取り、会議の雰囲気。
1-1. 検知のノウハウ
1-1-1. 定量
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 平均からマネジメント課題やノウハウを発見する | サーベイの平均値が低い場合、チーム全体に影響する構造的な課題や、解消すべきボトルネックが潜んでいる可能性があります。逆にサーベイの平均値が高い場合、マネジメントを通して理想が実現しているはずです。 |
| 前回比から変化を発見する | 前回のサーベイから大きく低下している場合、その間の出来事や施策の影響で悪化しているはずです。逆に、前回のサーベイから大きく向上している場合、その間の出来事や施策の影響で改善しているはずです。 |
| 分布と極端な値に注目する | 平均値が良くても分散が大きい場合、組織内で二極化が起きている可能性があります。一部の不満を見落とすリスクや、特定の層にのみ施策が刺さっている状況を検知できます。 |
| 推移の傾きに着目する | 単月の状態だけではなく、連続した期間の推移の傾きに注目します。緩やかに上昇・下降が続いる項目は、組織の文化や構造的な課題が継続的に改善しているか、悪化しているサインとして受け止めるのが望ましいでしょう。 |
1-1-2. 定性
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| コミュニケーションの変調に気づく | 発言の内容そのものだけではなく、頻度や反応速度の変化に注目します。例えば、以前は活発だった議論が静まり返る、リアクションのスタンプが減る、1on1での話題が事務的な内容に終始する、といった変化はエンゲージメント低下の予兆である可能性があります。逆に活発になったり、リアクションが増えているなら向上の予兆になります。 |
| スコアと空気感の乖離を疑う | 数値は高いのに、会議の場に活気がない、あるいはメンバーに疲弊感が見える場合、本音を出しにくい環境要因があったり、形式的な回答が優先されて実態が見えにくくなっているリスクを考慮したいところです。現場の肌感覚を信じ、違和感を放置しない姿勢が大切です。 |
1-2. 経験から得た具体例
1-2-1. 土壌づくり
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 従業員の交流拡大 | 各従業員が交流する範囲が広がり、それぞれの関わりが深くなるほど、生き生きと働いている人の情報や、悩みを抱える人の情報が関わる社員を通してマネージャーや人事に伝わりやすくなり、現状を把握しやすくなります。 |
| マネージャー・人事の交流拡大 | マネージャーや人事が交流する範囲を広げ、それぞれの関わりが深くなるほど、従業員本人や本人から相談された人を経由して活躍の情報やアラートを拾いやすくなります。 |
| 組織課題に向き合う姿勢を見せる | 取り組んでいる過程が可視化されないと、メンバーは自分の声が届いているか不安になり、次第に発信を控えてしまう傾向があります。 |
| メンバーにリーダー経験を用意する | 組織課題に向き合う立場を知ることで、視座が上がり、アラート共有に対して協力してもらいやすくなります。 |
1-2-2. ツール・手法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| パルスサーベイによる可視化 | パルスサーベイで定期的にエンゲージメントを可視化することで、チームや個人のエンゲージメントの現状や変化を可視化し、エンゲージメントに関わる課題や成功時のノウハウを発見しやすくなります。 |
| ライフサイクルサーベイによる可視化 | 入社、異動、退職など従業員の職場体験における任意のイベントに対してアンケートを実施し、スコアに応じて追加でヒアリングをすることによって、特定のイベントに関わる取り組みが健全に機能しているか確認できます。 |
| 定期1on1 | 定期1on1を通して、業務やキャリアに関わるメンバーの課題感を継続的に把握することができます。 |
1-3. このステップでのAI活用
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| サーベイの資料作成の自動化支援 | サーベイの実施結果を多角的に可視化するのが有用です。可視化のオペレーション負荷を下げる際に、GAS等プログラムを用いた自動化が有効で、その工程を効率化する意味でAIによる補助付きのプログラミングが有用です。 | 生成AIの補助で Google Apps Script によるサーベイ報告書作成の自動化を効率化した話 |
| AIによる内省支援 | メンバーの内省支援を通してアラートをキャッチするのは、熟練のコーチによるコーチングが最適です。一方で、コーチングの習得は一定の時間がかかります。そこで、成熟するまでの過渡期として内省の支援をAIにしてもらうのが有効です。 | Gemini を活用した内省支援ツール「ターボチャージャー」を導入した話 |
1-4. 参考記事
- 従業員エンゲージメントパルスサーベイ
- 組織開発室向けにパルスサーベイの可視化支援を行いました
- 従業員エンゲージメントを支える10個の要素と環境依存の+1要素
- 個別の従業員体験を把握可能にする従業員ライフサイクルサーベイとは?
- 継続的パフォーマンスマネジメントに取り組みはじめた
2. 選定

重要な少数にリソースを集中させる
全てを同時に解決しようとするとリソースが分散し、どれも中途半端に終わります。解決したときに最もインパクトが大きい課題を一つ選び、そこに全力を注ぐ形が理想的です。
2-1. 選定のノウハウ
- リスク解消と理想追求のバランス : 放置すると組織崩壊を招くリスク軸と、ビジョン実現に向けた理想軸の2軸で判断します。上位の層が組織を牽引する法則を意識し、良好な部分をさらに伸ばす視点を持ち合わせるのが有効です。
- 戦略的な棄却 : 1つを選ぶということは、他の課題を今は扱わないと決めることです。選ばなかった課題を捨てたのではなく、実行力を高めるために優先順位を下げたと明確に認識することで、迷いを払拭しやすくなります。
2-2. 経験から得た具体例
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ボトルネックへの集中 | 組織課題への対応は、事業活動との併存が必要です。最小に絞りつつ対応することで、事業活動を鈍化させず、組織課題の解消をバランスよく進めることができます。 |
2-3. このステップでのAI活用
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| AIへの相談 | サーベイの結果を元に相談できる Gem を作成してあるため、優先度の検討についても相談することができます | サーベイの結果データを元に分析レポートの作成や組織課題の相談ができる Gemini の Gem を作成した話 |
2-4. 参考記事
3. 明確化

抽象的な課題感を、具体的な事象へ変換する
表面化した課題はあくまで結果であり、原因ではありません。推測だけで施策を打つのは、エラーログを見ずにコードを修正するようなものです。まずはデバッグ、すなわち事実確認のプロセスを丁寧に行いたいステップです。
3-1. 明確化のノウハウ
- 解釈ではなく事実を問う : 情報を集める際、なぜという解釈ではなく何が起きているかという事実を問います。5W1Hを徹底することで、問題の真因が相性なのか、制度不備なのか、情報の欠落なのかを正しく特定できる可能性が高まります。例えば『チームの雰囲気が悪い(解釈)』ではなく、『会議で発言する人が固定化されている(事実)』
- AIを仮説生成のパートナーにする : 大量のテキストデータから傾向を掴む際、AIに多角的な仮説を立てさせ、それを人間が対話で確認するという役割分担を推奨します。
- 歴史を紐解く : 問題は一つの原因と結果だけで完結しているとは限りません。過去から現在に至る複数の出来事が絡み合っている場合があります。原因と結果の連鎖を遡りましょう。入社時の期待値調整のズレ、過去の評価の積み重ね、過去の人間関係のトラブルなど、歴史的な経緯がありえます。
3-2. 経験から得た具体例
3-2-1. 可視化・記録
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| 分析レポート(グラフ) | 結果のレポートをグラフでまとめることで問題が潜む箇所を視覚を元に発見しやすくなる。 | 組織開発室向けにパルスサーベイの可視化支援を行いました |
| 分析レポート(要点ドキュメント) | 結果のレポートの要点をまとめることで、ノウハウや課題がありそうな場所を短時間で把握しやすくなる。 | 生成AIの補助で Google Apps Script によるサーベイ報告書作成の自動化を効率化した話 |
| イベントログの記録 | どの時期にどのような出来事があったか、どのような施策を実施したかを記録していると問題が発生した時期との対比で原因のヒントを得ることができます。 | |
| 検知の省エネ化 | 検知のための取り組みのうち、定期的に実施するものは運用コストが膨らみやすいため、できる限り自動化・効率化をします。私たちのチームは人事が2人ともエンジニア出身だったので自分たちで対応できましたが、一般的な人事部門で対応する場合はコーポレートエンジニア等の協力が必要です。 |
3-2-2. 探索的アプローチ
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| チームでの掘り下げ | チームの関係者全体で組織課題について掘り下げる。 | |
| 1対1での掘り下げ | 多人数がいる場では話しにくいお題については1on1など、個別に問題を組織課題を掘り下げる。 | |
| 双方の目線を知る | 人の対立が原因の場合、片方の言い分だけだと偏っている可能性があるため、双方の言い分を別々に確認する。また、可能であれば第三者の目線もあるとなおよい。 | |
| 習熟者の伴走 | 組織課題の扱いに慣れた担当が、整理の手伝いとして伴走をする。 | 現場と人事による組織課題相談定例 |
3-3. このステップでのAI活用
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| 分析レポート作成の補助 | 分析レポートの作成をGASで自動化する際にAIによる開発補助をした | 生成AIの補助で Google Apps Script によるサーベイ報告書作成の自動化を効率化した話 |
| パルスナビによる明確化 | パルスサーベイの結果を元に組織課題をより詳細に掘り下げた分析レポートを作成したり、組織課題について相談できる Gemini の Gem を作成した | サーベイの結果データを元に分析レポートの作成や組織課題の相談ができる Gemini の Gem を作成した話 |
3-4. 参考記事
3-4-1. 問題明確化の基礎
- 従業員エンゲージメントサーベイの結果は具体的な問題を抽象化したもの。どう扱えばよいか?
- 問題を定義してから解決策 | DevelopersIO
- 問題の明確化 – 全体像
- 問題の明確化 – 粒度の粗い問題 | DevelopersIO
- 問題の明確化 – 解決策のみの共有 | DevelopersIO
- 問題の明確化 – 感情のみの共有 | DevelopersIO
- 問題の解決は表面にあるコンテントだけではなく、プロセスの探求が必要 | DevelopersIO
3-4-2. 情報収集について
- 事実を引き出すための事実質問
- 従業員体験の改善におけるアドホックサーベイとは
- 調査方法 – インタビュー | DevelopersIO
- 調査方法 – 観察 | DevelopersIO
- 調査方法 – 概要調査アンケートと詳細調査アンケート | DevelopersIO
4. 解決

問題の解消から理想の実現へ
不満をなくす状態は通過点に過ぎません。その先にあるメンバーが自律的に動き、熱量高く働ける理想の実現を目指して施策を設計します。
4-1. 解決のノウハウ
- 共創の場の設計 : マネージャーが独断で解決策を決めると、メンバーはそれを自分事として捉えにくくなります。解決策を一緒に考えるプロセスそのものが、当事者意識を高める施策として機能します。
- 仕組みに落とし込み、属人性を排除する : 特定の誰かの頑張りに依存した解決は長続きしません。オンボーディングの型化、キャリア指針の明文化といった仕組みに落とし込むことで、組織の標準品質として定着させたいところです。
4-2. 経験から得た具体例
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| 伴走支援 | 単独で解決が難しい状況があれば、人事による伴走支援を実施する | 全社人事が1年間、事業部のチームに入り込んでマネジメント支援をした話 |
| ノウハウの蓄積・共有 | うまくいっている部門のノウハウを記録し、共有する | 従業員エンゲージメントサーベイを問題の解決だけではなく、ノウハウの発見・共有にも利用する |
| 解決策の橋渡し | 人事が複数の部門の組織課題の解決に関わることで、ノウハウを持つ部門や、過去に類似の課題を扱った部門のマネージャーを引き合わせる |
4-3. このステップでのAI活用
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| 個別対応から仕組みへ | 伴走支援として実施した1on1で得た経験を元に内省支援のAIツールを整備した | Gemini を活用した内省支援ツール「ターボチャージャー」を導入した話 |
| パルスナビによる解決策の提案 | パルスサーベイの結果に対して原因を掘り下げ、原因にマッチした解決策を提案する Gemini の Gem を作成した | サーベイの結果データを元に分析レポートの作成や組織課題の相談ができる Gemini の Gem を作成した話 |
4-4. 参考記事
5. 解決の確認

やりっぱなしにせず、サイクルを閉じる
施策が目的を達成したかを検証し、組織としての学習に変えます。また、改善への取り組みを周知することで、組織への信頼を構築します。
5-1. 確認のノウハウ
- あなたの声が組織を変えたと明示する : 施策の成否に関わらず、メンバーに対してアクションの結果を伝えます。周知がないと、メンバーはフィードバックしても無駄という感覚になり、情報の精度が低下する負のスパイラルに陥る恐れがあります。
- 失敗を潔く認める文化 : 施策が期待通りの効果を出さなかった場合、それを事実として認め、再度ステップ3の明確化に戻る姿を見せます。このプロセスこそが、組織の透明性と誠実さを示す貴重な機会となります。
- 開示できない活動の存在を明示する : 組織課題には、個人に関わるものもあり、内容次第で配慮のために関係者に共有できないものもあります。そういった種類の課題もあり、取り組んでいるが伝えられないこともあるということを明示します。
5-2. 経験から得た具体例
| 項目 | 内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| サーベイの前回比を確認 | 定期実施のパルスサーベイで、特定の組織課題に関わるスコアが改善しているかどうか確認する | |
| 定性的な変化を確認 | スコアだけでなく、1on1やSlackでの反応から、メンバーの心理的な変化(納得感や期待感)を直接確認する。 |
プロセス全体に関わるポイント
新任マネージャー向けサーベイオンボーディング
新任のマネージャーはサーベイを活用した組織改善をしたことがありません。そのため、新任向けのサーベイオンボーディングを実施しています。
実際のレポート類を見てもらうのが実感しやすいため、各種レポート(グラフ、表、要点ドキュメント)を見せつつ、レポートの見方を説明します。一通り実際のスコアや報告書を確認してもらったあとに、サーベイの活用方法に関して一連のプロセスやポイントを説明しています。
詳細は以下の記事を参照ください。
パルスサーベイオンボーディングを開始してから半年以上経過しました | DevelopersIO
伴走サポート
新設の部門ほど、組織課題を遭遇しやすく、その上で部門長も新任ならなおさらサポートが必要な状況です。そのため、新設部門に関して要望があればサーベイの実施ごとに結果を一緒に掘り下げる伴走型定例を実施していました。
また、定例だけではなく、実際の組織課題の継続的な解決においても伴走が必要な場合、より深く介入し課題の整理から解決策の実施も含めて進行を伴走支援しました。
全社人事が1年間、事業部のチームに入り込んでマネジメント支援をした話
組織課題は各部門のマネージャーが自力で解決できるのが理想ですが、単独ではどうにもならない場合、外部からの支援が必要です。全社の人事やHRBPなどが支援できるとよいでしょう。一方で、組織体制によってはサポートする人員のリソースも限られ、すべてのサポートにまで手が回らないため、ある程度クリティカルなケースに限定して対応することになるでしょう。
まとめ
組織課題の解決に特効薬はありません。しかし、この5ステップを粘り強く回し続けることで、組織は確実に自ら良くなる力を身につけていきます。
一方で、こうした対応がマネージャーにとって多大な時間と精神的プレッシャーを強いる難題であることも事実です。組織改善が滞る最大の要因は、マネージャー個人の資質ではなく、仕組みの不足によってマネージャーに超人であることを求めすぎている点にあります。技術的な課題とは異なり、組織課題は正解通りに取り組んでも短期間で解決するとは限りません。
だからこそ、AIによって検知や分析を省エネ化し、人事が伴走する。マネージャーを孤立させず、役割を分担するこの合理的な分業こそが、不確実な組織運営を支えるために必要な補助輪であると私は考えています。
最後に最も大切なのは、仕組みやAIを使いこなしつつ、その先にある一人ひとりの従業員と向き合うことです。数字や報告書は、対話のための地図に過ぎません。その地図を手に、一人ひとりが強みを最大限に発揮し、誇りを持って働ける組織を、皆様の手でつくり続けていくことを願っています。
関連資料
全体に関わる関連資料です。







