【書評】僕がコントや演劇のために考えていること #ビジネス書を楽しもう

2020.12.11

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はじめに

せーのでございます。

誰にも知らせずまったり始めている「ビジネス書」アドベントカレンダー、本日は11日目です。

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本日は小林賢太郎著「僕がコントや演劇のために考えていること」です。

金曜日ということで、少しソフトな、毛色の違うものを選んでみました。
著者の小林賢太郎さんは30代後半より上の方であれば「ラーメンズの人」といえばわかるかと思います。
お笑いコンビ「ラーメンズ」のコント台本、演出を全て勤め、一時期からはテレビを離れ「パフォーミングアーティスト・劇作家」として様々な名作コントを作り続けてきた人です。つい1ヶ月ほど前、惜しまれながら表舞台を引退、裏方に専念することが発表されました。



仕事というのは、表現の一種であると私は思います。特にエンジニア、という仕事は様々な場面において創造力やアイデアというものが欠かせません
今までご紹介してきた本にある「仕事術」は「仕事をしやすい環境を整える方法」が多く、仕事そのものに関することにはあまり触れてきませんでした。
この本は小林賢太郎さんが文字通り「ものを作る時に考えていること」をクリエイター目線で語っている本です。
私達は舞台やコントを作ることはありませんが、例えばサービスであったり、ソリューションを作る時にどういう目線を心がけたらよいか、というヒントがこの本には隠されています。

ということで今回は小林賢太郎さんの「僕がコントや演劇のために考えていること」から、私達の仕事にも活かせそうな部分をご紹介します。

ちなみにこの本は「考えていること」を羅列してあるような構成となっています。章立てがされていたり、体系的にまとめられているわけではないので、Tips集のような感じでお読みください。

アイデアは「たどりつくもの」

アイデアを出す時に重要なのは「意識すること」だそうです。

例えば部屋の時計の針の音に意識を集中してみてください。
気にしたらずっと聞こえていると思います。今まで聞こえていなかったのは、気にしていなかったからです。
こんなふうに、アイデアのかけらも、意識していなければどんどん通り過ぎてしまうのです。

私達でいう「アンテナを張っている」という状態かと思います。
日常生活をしていると全く自分と関係ないジャンル、例えばジャニーズのコンサートでこんな新技術が演出に使われた、とか、映画で自分の右手と自分がしゃべるシーン、などから「面白い」と刺激を受けた時に、何日も後で突然自分の仕事のヒントになったりするようなことがよくあります。小林さんがいっている「アイデアのかけら」というのはそういう事かな、と思いました。

私は、新しいアイデアや発想、というのは「他の人が考えてこなかった組み合わせ」だと思っています。

脳科学的に言うとこうなります。人間は記憶を海馬から取り出すのですが、記憶というのは海馬の中の一つの引き出しに一つの記憶が入っているわけではないそうです。それぞれのシーン、人、感情などの様々な要素がそれぞれ別の引き出しに入っていて、それを適切な引き出しから取り出して、組み合わせた状態が「思い出す」ということなのです。似た情報を同じ引き出しにいれることで容量を節約している、と言われています。
この引き出しのいくつかを似た情報として取り出してしまう行為が「思い違い」で、全く関係ない情報を偶然取り出してしまった状態が「新しい発想」となります。

この本にも「新しい発想のコントを生み出す方法」が書かれています。それは「一本コントを完成した後、それを放置して忘れ、もう一度取り出して素材として使う」という方法です。劇中劇として使ったり、別の完成品と組み合わせるなどして、出来上がったものが新しい発想のコントとなるようにしているのだそうです。

そういうふうにして生み出された作品は、観客の想像を超えています。あたかも天才的な発想に見えるのです。タネ明かしをすれば、そんなコントをいきなり思いついたわけではなく、何人もの自分の脳みそをかけ合わせてつくった作品、ということなのです。

大切なのは「普段の生活で見聞きするものにアンテナを張り、別の機会にそれを組み合わせる」ということなのですね。


観客が「芸」を感じる瞬間を織り込む

著者はパフォーマーであり、劇作家であるため、この本には「お客様への向き合い方」が丁寧に書かれています。
個人的には勉強会などでプレゼンをする際に非常に勉強になっています

  • 台本は「ストーリーの面白さ」を下に敷き、上に装飾的な笑い(言葉遊びや身体表現など)を重ねる
  • 作る順番は「しくみ(構造のアイデア)」「オチ」「素組み(しくみが活きる展開を考えてならべること)」「装飾(笑いの要素をいれていく)」
  • セリフは1文字でも少ないほうが良い
  • 余計な装飾は観客の思考の邪魔になるので、道具類はなるべく「ふつうのもの」を選ぶ。なくていいなら無いほうがいい。
  • 劇場は天井が低く、客席がひな壇だと空間の容積が小さくなり、演者の圧が逃げないので一体感のあるライブになる
  • 逆に天井が高かったり、最後列まで距離がある、客席がフラットだったりすると空間の容積が大きくなるので、空間に気配が逃げ、お客様が冷静になる。こういう劇場では「ライブで盛り上がる」とうより「作品を鑑賞する」という大人な雰囲気になる
  • 音楽は情報として強すぎる
  • 観客は拍手のしやすさに拍手をするので、拍手をしやすいように観客にタイミングを伝えることが重要

そんな中でも面白いと思ったのは「観客が特別さを感じるようにする」ということです。

チケット代を払っている観客が納得できる要素の一つが「自分にはできない、と感心する」ことです。コンサートでいう「演奏テクニック」や映画の「映像技術」などです。小林賢太郎さんの舞台で言えば「手品」や「パントマイム」、「超長台詞」や 「高度な言葉遊び(五十音をすべて使うコントや同音異義語などを組み合わせたもの)」ということになります。



これらの「芸」を入れ込むと観客の満足度は高まるのだそうです。ただ、これを嫌味なく入れ込むために「必然がそこにあるかどうか」を大切にしているのだそうです。特技があったら必然を持って笑いに重ねられるか、が重要なのだそうです。

エンジニアにとっての「芸」は「技術」であり「知識」です。確かに機械学習やXRなどの技術があっても「私達にはこういう技術があります」と言いたいだけ、のようなシステムもたまに見かけたりします。それはそのシステムの目的に取って必然性がないから、なんですね。プレゼンでも高度な知識はただ発表するだけではなく、本来のテーマに必然性を持って組み込むようにしたいと思います。


チームには下やうしろではなく「となり」で歩いてもらう

この本では表現力を「ほぼコミュニケーション力」と言っていて、お客様へのメッセージの伝え方や、演出家として演者とのコミュニケーションなどが書かれています。

その中でも「スタッフとの信頼関係と距離感」というテーマでは「表現したい世界の全てをスタッフには伝えない」とし、その理由を

スタッフは僕の”下”とか”うしろ”からついてきているわけではありません。それぞれが自立して”となり”にあるコースを歩いているのです。僕は、ゴールがどっちにあるのかを示すのが仕事。そうすることで、スタッフは「ならばこうすべきはずだ」と自ら考え、一丸となって同じゴールを目指せるのです。

としています。現場にはそれぞれの仕事があって、人の仕事に手を出せるのは自分の仕事が100点とれている人だけだ、ということです。

チーム論として、全員を「プロ」として「任せる」「任される」という重要性を語っているのですが、この考え方は仕事をする上で、非常に重要だと私も思います。私もプロの「エンジニア」として自分のすべき仕事に責任を持って取り組むと同時に、例えばマネージメントをしてくれる人にリスペクトは持っていても「偉い人がこう言ってるから聞いておこう」とはあまり考えないタイプで、クラメソはこういった「役割分担」という意識がとても尊重されている組織だと感じています。


説明する義務

演劇、お笑い、といった芸能の道は成功する確率が低いため「親や先生に反対されている」といった相談を小林さんもよく受けるのだそうです。そんな人達にこの本はこう言います。

自分の才能を相手に証明することはとてもむずかしいことです。しかし、その手立てを考えて実行することこそが「表現を仕事にする」ということ。目の前の大人ひとり説得できないようじゃ、やっていけません。しかもプロの世界に踏み込んだら相手は赤の他人です。それも5人や10人ではありません。何百人、何千人、その先には何万人もの観客の厳しい目があるのです。

自分の思いついたアイデアや意見が、なかなか採用されない。エンジニアの業界でもよくあることです。
「使いにくい」「面白くない」から始まって「効率的ではない」「どこで儲けるのか」「どういった点でユーザーの役に立つのか」「かけるリソースに見合うのか」、、、様々な切り口から反対された経験を持っている方も多いかと思います。
アイデアを出す、ということは、自分がこれを作りたい、だけではなかなか通りません。三方良し、という言葉がありますが、一緒に開発するチーム、実際に運用する人たち、お金を出すステークホルダー、そしてユーザー。色々な人達が見て「これはいい」というものではないといけません。そのためには、どの立場からも、そのアイデアが役に立つ、ということを「説明する能力」が欠かせません。エンジニアは開発だけできてもダメなんだ、ということを、違う世界のプロから教わった気がします。

まとめ

以上、今日は「僕がコントや演劇のために考えていること」をご紹介しました。

この記事を読んでいる人は表現する、という作業を直接している人は少ないと思いますが、この本からエンジニアとして学ぶことは多かったです。
この仕事も結局はいろいろな人と関わり、一緒に何かをつくりあげ、それを誰かに発表して、お金をもらう仕事です。これは一種の表現と言えるかと思います。
これからも自分に妥協はせず、面白いもの、役立つものを提供していければと思いました。

それではまた明日、お会いしましょう。