【書評】マインドセット:「やればできる!」の研究 #ビジネス書を楽しもう
はじめに
せーのでございます。
誰にも知らせずまったり始めている「ビジネス書」アドベントカレンダー、本日は16日目です。
バックナンバー
- Day1: やる気が上がる8つのスイッチ
- Day2: 自分を操る超集中力
- Day3: なぜ、あなたの仕事は終わらないのか
- Day4: 秋本治の仕事術
- Day5: 遅読家のための読書術
- Day6: 読みたいことを、書けばいい。
- Day7: 影響力の武器
- Day8: 会社では教えてもらえない 仕事が速い人の手帳・メモのキホン
- Day9: なぜかミスをしない人の思考法
- Day10: 頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?
- Day11: 僕がコントや演劇のために考えていること
- Day12: 習慣が10割
- Day13: 頭のいい説明「すぐできる」コツ
- Day14: あなたの1日を3時間増やす「超整理術」
- Day15: やり抜く人の9つの習慣
本日はキャロル・S・ドゥエック著「マインドセット:「やればできる!」の研究」です。
この本は帯にも書いてあるとおりビル・ゲイツが紹介したことで一気に広まった名著です。
現在では「人はみな一人ひとり違う」というのは当たり前のこととして認識されています。でも、なぜ違うのでしょうか。
このマインドセット、という考え方は実は「どう考えれば成功するか」という話ではなく、ここから始まった話です。
現代、多くの人に周知されているのは「人間は遺伝子情報により違いが出る」というものです。この説が知られる前には「頭蓋骨の凹凸」や「頭蓋骨の大きさ、形」がその差を表す、と考えられていたそうです。そういえば私が子供の頃には「脳みそが大きいと頭がいい」「バカは脳みそにしわがない」という例えが確かにありました。
ですが、このテーマでは専門家の間でもう一派、別の考え方があります。それは「生まれ育った環境や体験、教育、及び学習方法に起因する」という主張です。これも最近教育の問題と絡めて良く聞く話ですね。
人間の違いとは、簡単に言うと「能力の違い」とも取れます。つまり、人間が遺伝子情報によりその資質が固定されているのであれば、能力には個々によって限界があり、向上させることは不可能、ということになります。
一方、人間が後天的な要素によりその資質が変わるのであれば、その環境や努力によって人の能力は向上していく、ということになります。
さてあなたは、どちらが正しいと思うでしょうか。
今回はこの本にある「人間には2つの考え方がある」という研究結果を元に、その2つのマインドセット「硬直マインドセット(fixed mindset)」と「しなやかマインドセット(growth mindset)」の特徴を細かく学んでいき、これまでの様々な仕事術と合わせて、「理想の考え方とは何か」を考察していきたいと思います。
マインドセットについて詳しく知ろう
この本では人間には「硬直マインドセット」と「しなやかマインドセット」があり、その考え方によってその後の人生に大きな違いが出てくる、と主張します。ではまず、2つのマインドセットについて、その特徴を書いていきます。
硬直マインドセット
硬直マインドセットとは「自分の能力は固定的で変わらない、と信じている人」を指します。具体的には
- 知能や人間的資質、徳性も一定で変化し得ない
- 成功するのは自分にその素質があるから
- 失敗するのは自分にその素質がないから
- 新しい事を学ぶことはできても、知能そのものを変えることはできない
- どのような人間かは既に決まっており、それを根本的に変える方法はあまりない
- ものごとのやり方は変えることができても、人となりを根本から変えることはできない
- 「難しい問題に正解した時」にやりがいを感じる
- 注目するべきはどれだけ結果を残したか
という考え方です。極端だな、と思うものもあれば、「いや、そうでしょ」と思うものもないでしょうか。
しなやかマインドセット
一方しなやかマインドセットとは「人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができる」という信念を指します。具体的には
- 知能は現在のレベルに関わらず、かなり伸ばすことができる
- 知能は伸ばそうと思えば、相当伸ばすことができる
- 成功したのは自分が努力したから
- 失敗したのは自分の努力が足りないから、または他の人が自分以上に努力したから
- 現在どのような人間であっても、変えようと思えばかなり変えることができる
- どのような人間かという基本的特性は、変えようと思えば変えることが出来る
- 「難しい問題を解くこと」にやりがいを感じる
- 注目するべきは自分がどれだけ成長したか
という考え方です。これもまた理想論だな、と思うものもあれば大事な考え方だな、と思うものもあります。
この本では、当然ですが「しなやかマインドセットの方が成功する」と指摘しています。ですが、正直私には一長一短に見えます。
また「あなたはどちらですか?」と聞かれると「両方の性質がある」と答える人は多いのではないでしょうか。
そう、マインドセットとは「その人がどちらのタイプなのか」と分類できるようなものではないそうです。
- ほとんどの人が両方のマインドセットを併せ持っている
- 同じ人でも分野ごとにマインドセットが異なる場合もある(知能と芸術的才能など)
- しなやかマインドセットとは「全員天才になれる」といっているわけではなく「才能は伸ばせると信じていると潜在能力が最大限に発揮される」ということを示している
非常に曖昧です。。。「潜在能力が最大限に発揮できる」というのは逆に言えば「能力にはそれぞれ最大値がある」と言うのと同義に聞こえます。
つまりマインドセットとは文字通り「心のあり方」を指していて、人間を分類するものではない、ということなのかと思います。
変えられる点は何もかも変えなければ、と思う必要はない。誰にでもどうしようもない欠点がある。自分の人生や他人の生活に差し障りがなければ、あえて変える必要はない。
硬直したマインドセットは成長や変化の妨げになる。マインドセットをしなやかにすれば変化への道が開けてくる。けれども、どの部分を変えるのがもっとも有意義かは、じぶんで判断すべきことだ。
つまり、成長したい時、また変化したい時には、その分野についての考え方をしなやかマインドセットに変えることで潜在能力が最大限発揮され、結果が出やすい、という研究結果を示しているわけです。しなやかマインドセットじゃないと成功しない、ということではないわけですね。そもそも自分の価値を成功したかどうかにおくのは硬直マインドセットです。
また「結果にこだわる」というリスクが硬直マインドセットとしなやかマインドセットでは違います。
結果が出なかった時、硬直マインドセットではそれまでの努力は全く意味のないもの、と判断します。そして原因を自分の能力の低さだと考えます。能力は固定されている、というのが硬直マインドセットの考え方なので、これ以上の努力を放棄してしまったり、自分の能力に絶望してしまう確率が高いということですね。
しなやかマインドセットの場合、結果がどうなっても、力を注いでいること自体に意義を見出すことができるため「自分はよくやった」「また頑張ればいい」という心境になりやすい、ということです。
ウサギとカメは硬直マインドセット
硬直マインドセットとしなやかマインドセットの定義がなかなか難しい、ということがわかってきました。
この本は硬直マインドセットと「努力の意味」に関して、童話「ウサギとカメ」の話を例に説明しています。
ウサギとカメではウサギが途中で寝ている間に、足はのろいけど着実なカメが追い抜き、ついにウサギに勝つ、という話です。
一見「努力し続けることは大事だ」という教訓に見えますが、この本によると結果として努力というものに良くないイメージを与えているのだそうです。
つまり「昼寝をしなければウサギは勝てた」「カメはウサギがヘマをしない限りは勝てない」「努力とはのろまなやつがすることだ」という考え方です。
人間には天賦の才能がある人間と、才能に恵まれない努力家のいずれかしかない、という考え方こそが硬直マインドセットの考え方なのです。
硬直マインドセットの最大のリスクはここにあります。努力する価値を軽視することです。
この考えは私達の日常生活に深く根付いています。私達は何となく「努力しないでできる人の方がすごい」と考えがちです。
この考え方が進むと「能力が高いことを証明するにはなるべく努力しないでできることだ」となります。そして「努力してできなかった時は、自分に能力がなかったことを証明してしまう」と本気で努力することが怖くなってしまうのです。
「頑張ろうとすると怖くなった。やってみてやっぱりダメだったら、と思うと恐ろしかった。
・・・・・・オーディションを受けて落ちても、本気で挑戦したのでなければ、とことん練習して望んだのでなければ、全力を尽くしたのでなければ、まだ言い訳ができる。
・・・・・・でも、『自分の全てを出し切ったのに、やはりダメだった』と言わなくてはならなくなったら、それ以上つらいことはない。
神童と言われたバイオリン奏者の言葉です。硬直マインドセットの人の中にある「才能に恵まれている者に努力は不要だ」という考え、また懸命に努力して結果が出なかった時に言い訳ができなくなることを恐れる気持ちが、努力を恐れるようになり、結果的に成功から遠ざけることになるわけです。
ここは個人的に非常に難しいポイントだと思います。なぜなら努力する要素の一つとして「私はやればできるから」と考える人はたくさんいます。そして「なぜやればできると思うのか」と深く考えると、そこに「私には才能があるから」「私にはこれをできるだけの潜在能力があるから」と考えることは、マイナスではないと思うのです。
失敗した時に「努力が足りなかった」と考える根源として「努力さえすれば私の能力なら必ずできるようになるはずだ」というプライドや自信は努力する活力になると、個人的には思うからです。
一方、それでも何度も失敗した場合、「私には能力がないのかもしれない」と思うこともまた事実です。これが自分の本当の能力を過小評価しているのかどうかは、続けてみないとわかりません。何度やってもできないかも知れないし、もう少し続けたらできるかも知れないのです。
しなやかマインドセットの場合「できること」ではなく「努力すること」に主眼が置かれるため、何度失敗しても苦しむことはなく、むしろ「やればできたのに」と考える方がつらいわけです。しかし、それはもしかしたら「一生成功しないハードルに挑み続けている」かも知れないのです。
ただここからわかる大事なことは「才能のある人でも努力は必要と理解しているか」「全力を出す、ということが大事」ということだと思います。
能力を褒めると生徒の知能が下がり、努力を褒めると生徒の知能があがる
この本ではマインドセットによる違いについて、スポーツ、ビジネス、恋愛、人間関係、など様々なテーマで実験と研究をした結果が書かれています。
そのうち教育分野に置いては圧倒的にしなやかマインドセットの方が成長することが証明されています。
「頭が良いから解けた」と「解けるようになってきたから、頭が良くなってきた」。問題が解けた時にどちらの考え方をするかによって、成長率に大きな差が出たそうです。
問題が解けたことを自分の能力の結果、と考える人(能力群)は、難問が出された時に「面白くない」と感じ、そこから離れていくようになりました。 問題が解けたのは自分が努力したからだ、と考える人(努力群)は、難問が出されると、そちらの方が「面白い」と感じる傾向があったそうです。
またその問題を別の人に教える、という作業をした時に、能力群の4割が自分の得点を高めに偽って書いたのだそうです。
つまり、能力が固定されている、と考えることは、その時点での得点こそが自分の能力の全てである、と考えるため、少しでも自分を優秀だと思ってもらいたくて嘘をついたり、体調が悪かった、周りがうるさかった、と言い訳をするわけです。頭が良いから問題が解けたとすれば、問題が解けないということは頭が悪い、ということになってしまうのです。その人にとって間違うことは恥ずかしいことなのです。
能力は努力によって変わる、と考える人は、その時できなくても努力し続ければできるようになる、と信じているため、ありのままの自分をそのまま出す傾向がある、とこの本は言います。
脳は筋肉と同じ
この本は最後に、マインドセットについてのワークショップで「人間には頭の良い人、普通の人、悪い人がいて、一生そのままだと思っている人が大勢いますが、最近の研究でそうではないことがわかってきました」、と言います。
脳は、筋肉と同じく、使えば使うほど性能がアップするのです。新しい事を学ぶと脳が成長して、頭が良くなっていくことが科学的に証明されています。
最近の脳科学の話題でよく出る話で「学習や経験によって神経回路網に新たな結合が生まれ、脳が成長していく」というものがあります。私は機械学習に仕事で関わっているので「シナプス」や「ニューロン」という単語でこれらが説明されることがよくあります。これは脳の可能性を示していて、どこまで知能は発達するのか、はまだわかっていない、未知の世界です。
足が速い人、高く飛べる人、は才能のある人、と思われます。でもよく考えてみれば、世界記録は未来に行くごとに更新されています。足の速さが才能だとしたら、たった数十年で人間は生物的進化をしていることになりますが、もちろんそんな短いスパンでは生物学的に根本的な遺伝子情報が変わることはありません。つまり、年々世界記録が更新されているのは、正しい努力の方法が見つかり、その方法でひたすら努力した人がいたから、ということになります。脳も同じく、努力によってまだまだ磨けるものだ、ということです。
まとめ
以上、今日は「マインドセット:「やればできる!」の研究」をご紹介しました。
今回はなかなか深い話でした。ステレオタイプに分けると色々と矛盾点が出てきてしまいます。より深いレベルで人間の心理と能力の関係について理解しないと、理解できないな、と感じました。
一方でてくる結論はとてもシンプルでした。つまり「努力に勝る才能なし」ということです。こちらはすぐ実践できるものなので、まずは自分を信じるところから始めたいと思います。
それではまた明日、お会いしましょう。